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18 狼狽

 



 ローズマリーは、何も関わっいてないような体を装うことにした。


 レジナルドの前で倒れたベアトリスを介抱したが、レジナルドの前でそれ以外の彼女に対する言及などは一切行っていない。


 であれば、今回の件に関するローズマリーの関与を彼は可能性として考えないだろう。


 さとい人ならば気がつく可能性はあるが、レジナルドの頭の中は、魔法学園の件を例にお花畑なのでそれもない。


 しれっとした顔で、お茶会を申し込み、ケンドール伯爵邸へと向かった。


「すまないな、慌ただしくて……」


 レジナルドの目つきは酷いものになっていた。眠れていないのか目の下には酷い隈があって、落ち着きなく足を小刻みに揺らしている。


 ケンドール伯爵邸の様子も、婚約者時代に交流を持っていた時から随分と変わっている。


 屋敷のエントランスを飾っていた数々の調度品はなくなり、使用人たちはせわしなく屋敷の中を行き来している。


 掃除が行き届いておらず、そこかしこにほころびが見えた。


「いいえ、わたくしが声をかけたのですから。気にしません。大変だったらしいわね」


 それらの件には触れずに、少し気遣うような声音でローズマリーは問いかけた。


「ああ……ああ! そうなんだ。ローズマリー……そうなんだ!」


 レジナルドは、語らずにはいられないとばかりに口を開いた。


「私の妹、ベアトリスについては君も知るところだと思うが、問題はその婚約者だ! モンティース侯爵令息なのだが、最初は快く婚約解消に応じるような態度だった」

「……」

「それなのに、突然、婚約解消間近になって、態度を変えた! 騙されたっ! 油断していたんだ!」

「と、言いますと?」

「あいつらは、私たちのベアトリスへの教育を、私たちの愛情をっ……ックソ!!」


 拳を握って、レジナルドは声を荒げる。


 それから彼はハッとして「すまない、あまりに腹が立って」と言い訳をした後に話を戻す。


「ベアトリスへの教育を……和解金の支払いを減らすための策略だとのたまったんだ」

「一応、確認するけれど、ケンドール伯爵家からの和解金の支払いで、ベアトリスの婚約は解消される予定でしたのよね?」

「そうだ! 私たちは、奴らが言っている企みなどしていない、支払うつもりできちんと対応していたというのに」

「それにもかかわらず、王族へと訴えを起こした……と」

「ああっ! そうだ!」


 ローズマリーは話の流れを確認するように、丁寧に聞いていく。


「私たちが、ベアトリスに多大な教育費をかけて育てていることを逆手にとったんだ。教育という名の長時間の拘束と虐待を行っているなんて言って」

「……」

「ケンドール伯爵家は和解金の支払いをしたくないばかりに、子供を痛めつけて、仕方のない体調不良で和解金なしの婚約解消に落ち込もうとしていると」

「……」

「将来のモンティース侯爵令息の伴侶を奪われるだけでなく、その伴侶となるべきだった女を虐待し、奪われた保証である和解金すら支払う気がない、悪質な貴族として話を大きくした!」

「……なるほど」

「誓って私たちは、悪いことなんてしていない! ベアトリスに愛情を注いで育っててやっただけなんだっ! それがっ、それがこんな理不尽なことがあるか!」


 レジナルドは頭を抱えて、金髪がさらりと落ちてきて顔を隠す。


 自分のことを彼は悲劇の主人公だと思っているらしい。


「それに王家も王家だ! ベアトリスの後見権がモンティース侯爵家へと渡り、ベアトリスの体調の回復や将来の教育のための費用の支払いがすべて我が伯爵家にのしかかってきているっ」

「まぁ、そこまでだったとは」


 ローズマリーは知っていることだったけれど、驚いたような声を出した。


 知っていると言うか、策を立てたのがそもそもローズマリーなのだから知っているも何もないのだが。


 ベアトリスの心を解放してから、ローズマリーはベアトリスにケンドール伯爵家の支出表の持ち出しの指示を出した。


 そして、そこには想定通り、多額の家庭教師への支払いが発生していた。


 そのきちんとした動かない数字こそが訴えの証拠になる。


 メイスフィールド侯爵家との件でギリギリなのに、多額の金額をそこに投下している異常性、それがどう婚約という契約を結んでいるモンティース侯爵家の損害につながるのか。


 それを正しい文脈で主張することこそ正当性となる。

 

 主張の大本の証拠も家庭教師たちへの裏が取られ間違いのないものとなり、王家には、ケンドール伯爵家は悪意を持ってモンティース侯爵家に損害を与えようとしていたと認められた。


 そしてモンティース侯爵家が望んだのは、和解金のきちんとした支払いではなく、婚約解消の撤廃と、婚約契約の履行だ。


 婚約契約の履行のためには、ベアトリスをきちんと育てる必要がある。その育てる役目を負うのにケンドール伯爵家は不適格とされ、後見権が設定された。


「貴族の中でケンドール伯爵家の評価は最悪だ! 私たちはあいつらの策略にはまったんだ。ベアトリス、かわいそうに。あんなに伯爵家のために身を粉にして学んでいたというのに……!」

「……」

「さらわれて今頃、悲しい思いをしているに違いない、許しがたい。本当に。それにこのままでは私たちは……っ」




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