17 選択
しばらくすると、ハッとベアトリスは我に返った。
それから、ルーファスの影で、もじもじとしてからローズマリーのことも見やって恥ずかしそうに肩をすくめた。
「パウダールームをお借りしたいです」
「もちろん、案内させよう」
そんなやりとりがあり、戻ってきた時にはすでに落ち着いた様子で改めて話し合いの席に着いた。
「お見苦しいところを見せてしまって、ごめんなさい。ローズマリー様、ルーファス様」
「気にしませんわ」
「俺も、問題ない」
「ありがとうございます」
再度ベアトリスは謝罪をして、ローズマリーもルーファスも優しい言葉を返した。
むしろ、感情が収まれば自分で泣き止んで、しっかりと取り繕えるあたり年齢以上に大人びていると言えるだろう。
それに大丈夫だと感情を抑え込んでいるよりも、発散してしまった方が案外きちんと目の前のことに向き合うことができたりする。
ルーファスの選択肢は正解だったと思う。
「……それでベアトリス。自分の気持ちに整理はついたかしら」
ローズマリーは一応の確認として彼女にそう問いかけた。
ベアトリスはローズマリーの言葉に、深くうなずき口を開いた。
「私は……酷く、強く、ずっととても認められたかった。それができると知ってしまったら、どんなことがあってもそれ以外考えられなかった」
「……」
「なにか、おかしな気も……本当はしていたんです。私……でも、褒められる、期待されるってすごく嬉しくて、でも何でかずっと足りなくて」
ポツポツと語られるベアトリスの気持ちは、とても切実なものだった。
彼女が欲しかったものは、ベアトリスという人間そのものに対する存在承認とその上での愛情だったのだろう。
それがあってやっとベアトリスは自分を認められる。
だから今回、その機会を得た……かのように見えた。
「なんか苦しくて、嬉しいのに、辛くて、逃げたいような、でも失望されたらと思うと動けなくて…………自分でも何もわかってなかった」
「そこから、動く勇気は出たかしら?」
「……はい。……わたし、はお父様や、お母様、お兄様に認められるより、ルーファス様の隣にいたい」
ベアトリスはいいながらルーファスと視線を交わす。
「今の、認められなくても頑張ってきた私のことを認めてくれるルーファス様のそばにいたい」
ベアトリスは、機会を得たかのように思ってがむしゃらになっていた。しかし実際にはそんな機会はなかった。
彼らはベアトリスのことを利用こそすれ、愛したりなんてできないのだ。自分以外の他人のことを、どうとでもできる都合のいい存在としか思っていないから。
自分以外を愛したことなどないのだから。
だから認められもしないし、愛されもしない、ただ使われ続けるだけ。
無駄であり、無力な人間を使う対象に選ぶのだか無駄以上に害である。
だからこそ、そんなくだらない人間に対する執着などよりも、今、目の前の自分のことを尊重してくれる相手を選ぶ方がずっといい。
それは簡単なことではないけれど、ベアトリスはルーファスの言葉によってそれを実践することができた。
「その方がずっと、いいって、思います。私、もう家族は選びません。ローズマリー様」
「いい結論ですわ。実はわたくしはその結論を実現するためにここにいますの」
「! そう、だったのですか」
「ええ」
「説明をよろしく頼む、ローズマリー嬢」
ローズマリーは、不安を持たれないために目を細めて笑みを浮かべた。
少々の手間はかかるかもしれないが、立てた作戦はそれぞれが無理なく、できる事ばかりだ。
結果にローズマリーの得はあまりないのだが、すっきりとした気分になることだけは確かだろう。
「ベアトリス、あなたには、ケンドール伯爵家の直近の支出表を持ち出してほしいのですわ」
「支出表……ですか」
「ええ、何ら機密情報でもなんでもない、ただの支払いの綴りです。ただし、現在の状況においては、正当性を主張するための決定的な証拠となる……詳しくお話ししましょうか」
そうしてローズマリーは、かみ砕いて説明した。
ベアトリスの心という不確定な要素が取り除かれて、もう不安に思う部分もない。
あと決まっていないことと言えばローズマリーがどのようにして、暴走しているレジナルドに引導を渡すのかだろうか。




