15 贈り物
ローズマリーのことを聞いた後、セオドアは寮の部屋へとすぐに戻った。
それから、机について突っ伏す。
本当は授業を放り出してローズマリーに会いに行きたい気分だった。
それでもそんなことをしたら彼女は悲しむだろうし、会いに行ったら手を握る異常のことをされてしまう。
それはとても贅沢な悩みで、現実はセオドアの気持ちとは関係なく充実しているはずなのに、ローズマリーの元婚約者のことで頭がいっぱいになってしまう。
(いっそ、会いに行ってしまう?)
自分自身にそう問いかけた。
そうしたってローズマリーは怒ったりしない。
でも、その彼女の優しさに甘えるのはあまりに情けない。
安心させてくれようとしているのに。不安を聞いて手を尽くしてくれているのに。
(ダメだよね。そんなんじゃ。だってそんな奴、ローズマリーにふさわしい男じゃないもん)
彼女の優しさにかまけて、何の支えにもならずに自分のことばかりなんてそんなの好きになる人なんてどこにもいない。
不安に思っても、それでも相手を信じて、自分にできることをやれる人が一番かっこいい。
セオドアはローズマリーに認めてもらったからにはそういう男になりたいのだ。
芯の強い彼女にたよる人間ではなく、後ろで支えられる頼りがいのある男になりたい。
(できる事、やろう)
結局そう結論を出す。ふと、最近授業で作成している、魔法具のことを思い出す。
魔法使いは魔法を使って、人を助けたり魔獣を駆除するが一番の仕事だが、魔法具の制作も魔法使いの一つの道だ。
ちょうど、セオドアの魔法は、ローズマリーが重宝している人を癒やすことができる水の魔法具と近しくて、使い勝手もいい。
派手で強い魔法ではないけれど、それも堅実な収入につながる仕事だ。
そういう道も見えてくるほど、魔法学園で真面目にやっているそう示せば、ローズマリーも少しは見直してくれるかもしれない。
(よし、頑張るぞ)
そうして、セオドアは拳を握って、魔法具の制作を始めたのだった。
ローズマリーは、セオドアからの手紙を読んで、とても温かな気持ちになって、無意識に笑みを浮かべていた。
彼は、魔法学園で順調にやっているらしい。
先日、手を握ったことが利いているのか、不安を感じている様子もなく、自分の成果を報告し、手紙とともに、水の魔法具を届けてくれた。
カリキュラム的にもちょうど魔法具の制作について習ったところだろう。
見たところ、魔法石に刻まれている魔法紋はつたなく作りも一級品とは言えないけれども、それでも、セオドアが手ずから作り出したものだと思うと愛着もわく。
それに非常にちょうど良かった。
魔法具というのはそれなりに貴重なもので、上級貴族であるローズマリーにとっては手が届かない代物というわけではないが、それなりに値が張る。
ベアトリスを救い出す過程で彼女が能動的に動かなければならない場面もあるのだ。
睡眠時間が少なく疲れ切って判断力が低下した状態では、ろくな思考ができない。
それでは困るので、直接ローズマリーが出向いて何らかの理由をつけて彼女を回復し、改めて様々な説明と行動を、と考えていた。
けれどもこれならローズマリーが使っていた魔法具をベアトリスに送り、ローズマリーはセオドアの魔法具を使うということができる。
「……さて、いよいよ準備が整ってきたわね」
ローズマリーは、手紙を丁寧に閉じながらそう口にした。
図らずも、良き協力もあり、準備は万端に整った。
ベアトリスをケンドール伯爵家から切り離す方法や制度についても、知識を入れ直したし、後は当日を迎えるだけだ。
ローズマリーの気持ちは不安よりも期待の方が大きく、一段落したら、会いに来られないセオドアの代わりにローズマリーから会いに行こうと考えたのだった。




