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12 突破口



「モンティース侯爵令息様がいらしているのですが……」


 侍女がそう言った途端、ベアトリスはガバッと起き上がった。そんなふうに起き上がってはいけないと諭す間もなく、彼女はかけだした。


「アビー! ドレスをっ」

「はいっ、お嬢様!」


 侍女に指示を出してすぐにまたドレスを着せてもらおうとする。


 顔色は幾分回復しているので、すぐにまた倒れるということはないと思うが、なぜそれほどまでに急いでいるのかローズマリーはその様子を見ながら首をかしげた。


「ロ、ローズマリー様、そ、その、モンティース侯爵令息っは、ルーファス様と言って私のことを認めてくれた、婚約者なの!」


 簡単に手早くドレスを着せてもらいながら、ベアトリスはモンティース侯爵令息のことを説明した。


 (ルーファスと言えば、モンティース侯爵家の跡取りですわ)

 

「大切な、人で! だから弱った姿は見せたくないんですっ」


 ベアトリスは迷うことなくそう言うが、それにはどんな意味があるだろうか。


 だって、ベアトリスはケンドール伯爵家の跡取りとなるしかない状況だ。自ずとそのルーファスとは結ばれない状況にある。


 現在婚約解消のための調整が行われているまっただかなで、ただ社会的にはそういう関係ということになっているが、もう添い遂げることの叶わない相手だ。


 今は会うことができないと突っぱねてもいいはず。


 それでも、ベアトリスの表情は少し明るく、ローズマリーは成り行きを見守ることにした。



  

 急いで準備を整えたベアトリスは、扉に向かう。


 開くと、そこにいたのは、たくましい体つきをした大男であり、ベアトリスの二倍はありそうな大きさだった。


 ローズマリーも見上げるような男性で顔の彫りが深く威圧感がある、年回りは兄と同じぐらいだろう。


 そしてそのルーファスはベアトリスのことしか見ていない。


 背後にいるローズマリーのことなど眼中になかった。


「ルーファス様っ、ごきげんよう」

「ああ、ごきげんよう。ベアトリス」

 

 ルーファスは小さな頭が下がる様子をみて片膝をついて、ベアトリスと目線を合わせた。


「休んでいるところすまない。先ほど君の兄上を見かけてな。話をしたところ、どうやら体調を崩していると聞いて、心配していたんだ」

「……か、軽い貧血だから、女の子にはありがちなことだし……大丈夫です」


 ベアトリスの笑みは、体調の悪さを感じさせない明るいものになっていて、ルーファスは口をつぐんでそれからベアトリスの頬に手を伸ばす。


「……」

「……本当に、大丈夫、なんです。ルーファス様。私、今は家族に頼られてて、頑張りたいの」


 頬をなでられて、ベアトリスは子供っぽく少しくすぐったそうに肩をすくめて、気を抜いたかわいらしい笑みで言う。


「だから、大丈夫です」


 ルーファスはそんなベアトリスを見つめて、とても硬い表情をしている。


 それは、心配や不安というよりも、どこか思い詰めたような顔つきでローズマリーはこれはと思った。


「……無理しているんじゃないのか? ベアトリス、まだ婚約は破棄されていない。今からでも……遅いなんてことはない」

「無理なんて……っ何のことだかわかりません。私は無理なんてこと、ないもの。ルーファス様が認めてくれた私は頑張れる子だからっ、私はっ」

「わ、わかってる。すまない。ベアトリスはすごいと俺は知ってる、知っているから」

 

 ルーファスが慎重に問いかけるが、ベアトリスはそう聞かれるとすごく傷ついたような顔をして、息づかいが荒くなる。


 それを見るともうだめだとばかりに、ルーファスも動揺して、ベアトリスの手を取って必死に笑みを浮かべて、ベアトリスの言葉を否定しない。


 そんな様子を見ながら、ローズマリーは頭の中で算段を立てていた。


 子供というのは親から引き離すことが難しい。第一に教育費と生活費に莫大な金額のかかる貴族の子供の生活を面倒見ようという人間がいないから。


 そして第二に面倒を見てもいいと言う人間がいたとしても、引き取ろうとする人間に正当性がなければ成立しない。


 この場合の正当性とは、かわいそうだとか、子供のためにとか、そういう感情的な正当性、ではなく法的な正当性だ。


 先ほどのベアトリスの話と今のやりとりからして、ルーファスという男は、けなげに頑張るベアトリスという個人に価値を感じているように感じる。


 そして、婚約は口だけの約束ではなく家同士の決め事……。


 (そこをつけばあるいは…………)




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