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友達ティミーは害獣 【ロッキー恐竜狩猟組合】  作者: 園山 ルベン


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Wounding Tooth「傷つける歯」

 ティミーはまた戻ってくる。そう予測を立てて、ごみステーションの前の通りにトラックを停め、荷台から見張ることにした。

 ハレットさんに頼んで、付近の住民には夜間出歩かないように周知してもらったのだが――。


「ティミー! ティミーちゃーん!」


 行政の指示に従えない迷惑な住民が、住宅街にトロオドンを呼び込んでいた。同じ霊長類でも話が通じないものね。


「どうします? 止めに行きますか?」


 ライフルを抱えていた鈴木くんも、苛立った様子でわたしに尋ねてきた。


「ライフルを撃つ時のルール、覚えている? まずは胴体、二発目で急所よ」

「さすがに駄目っすよ……」

「あら? 誰がヒトを撃つって言ったのかしら? ホモ・サピエンスは禁猟の対象よ?」


 法律というものがなかったらどうなっていたか。

 鈴木くんが乾いた笑みを浮かべていた。


「いずれにしろ、モリスさんを止めるだけ無駄よ。騒ぎになってトロオドンは現れないだろうし、毎晩同じ繰り返しになるわ。だったら、わたしたちが見張っている今夜のうちに決着をつけたほうが話が早いわ。ティミーをおびき寄せてくれているのだから、条件は厳しくなったけど好都合とも言えるわね」

「……もしかしてモリスさんを囮に?」

「まさか。彼女がトロオドンを手懐けたと言い張るのなら、様子を見るまでよ。わたしたちが近くで見張っているし、何かあればすぐティミーを撃つわよ」


 一度怖い思いをしたほうが、話が通じるだろう。


 そして驚いたことに、ティミーが現れた。

 街灯の光を、トロオドンの大きな瞳が反射する。

 一見、飾り羽がふわふわしていて可愛く見えるかもしれない。それでも華奢な後脚には鋭いシックルクローが跳ね上がっていて、前脚の鉤爪も獲物を捕らえることに特化している。油断すれば大怪我で済まない。


 鈴木くんがライフルを構え、ティミーに照準を合わせる。その彼の肩に手を置き、撃つのを待つように伝えた。


「肩を叩いたら、『撃て』の合図よ」


 小声で指示をすると、鈴木くんも頷いた。

 トラックの荷台にはわざと荷物を置いて、二人が隠れるようにしてある。だから、モリスさんもわたしたちに気づいていないだろう。


 ティミーは警戒することなくモリスさんに近づき、彼女が持っている袋をとても気にしている様子だ。


「ティミーちゃん、『待て』よ、『待て』」


 ティミーもモリスさんの言うことを理解しているのか、『待て』と言われると袋から視線を逸らし、その大きな目でモリスさんの顔を見つめた。


「よくできたわね! 偉いわ」


 モリスさんは袋から干し肉を取り出し、ティミーに差し出す。すると、ティミーは慣れた様子でそれを咥え、両手で掴んで食べ始めた。


 これは長い間餌付けしてきたのだろう。干し肉を彼女の手から貰う時も、手を噛まないように気をつけていたし、互いに警戒心がなさそうだ。


 トロオドンは群れない恐竜だから、人に懐くなんて信じられない。でも、現にティミーはモリスさんに自ら近寄り、餌をねだっている。

 まあ袋の中に餌があると学習させたモリスさんの罪はあるけど、住民に危害を加えないのならばティミーを生かす方法もあるかもしれない。


 ところで気になるのは、ティミーがモリスさんから目を離さないことだ。犬のように信頼しているからこそ目線を合わせているのだろうか。でも、猫にとって目を見つめることは敵意の表れだ。

 正直トロオドンのコミュニケーションが分かるほど生態に詳しくない。でも、ティミーの場合はどうもしつこい。何かを見逃さないように注視している。


「鈴木くん、構えて」


 わたしの勘は、警報を鳴らしている。


「ティミーちゃん、今日はおしまいよ」


 餌の袋が空になったようだ。

 ティミーが聞いたことのない鳴き方をして、餌をねだって甘える。


「駄目よ、また明日」


 モリスさんが踵を返して帰ろうとした。

 彼女がティミーに背を向けたのを見て、慌てて鈴木くんの肩を叩く。

 鈴木くんが引き金を引いたけど、ティミーのほうが一瞬早く動いていた。弾丸は飛び上がったティミーの足元をすり抜けた。


 ティミーはモリスさんの背中に飛びかかり、彼女を地面に押し倒した。シックルクローを背中に突き立て、首に噛み付こうとしている。


 鈴木くんはすかさず二発目を撃ち、ティミーの胸部に弾丸を命中させた。


 わたしは鈴木くんにもう撃たないように命令して、ティミーとモリスさんのもとに駆け寄った。ティミーは地面に倒れ込んで暴れているけど、すぐ近くにモリスさんがいる。


 走りながらモリスさんを見て、辺りは暗いから見えにくくても、出血は多くないと確認できた。


 それよりも致命傷を負って痛がっているティミーが可哀想だ。早く楽にしてあげないと。

 わたしはティミーの首を抑え、頭に拳銃を押し付けると、引き金を引いた。脳幹を失ったティミーは、すぐ動かなくなった。


「ごめんなさい、ティミー。わたしも、仲良くなりたかったわ」


 人間と恐竜は違う生き物。でも、土にしみこんでいくその血は、同じ色。

 ティミーも、モリスさんも、……シュトローマーくんも。

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