友達「ティミー」
「ティミー……ちゃん……?」
うわ言のように、力なく友達の名を呼ぶモリスさん。
しかし彼女だって大怪我を負っている。下手に動かないでもらわないと。
「ごめんなさい、あなたのティミーを殺して」
鈴木くんが持ってきた救急セットを使って応急処置をする。幸い、首の傷は深くない。シックルクローも歯も深く刺さることはなかった。でも一歩遅ければ、鋭い歯が動脈を傷つけていただろう。
「ティミーちゃんがわたしを……」
「あの子、ずっとあなたの隙を狙っていたわ。見つめ合っていたのじゃなくて、あなたが弱みを見せるのを観察していたのよ。
今まではジャーキーをたらふく貰えていたけど、『待て』なんて餌を取り上げたから、怒ったみたいね。
あの子が可愛子ぶって見えたのは、餌を貰えるからであって、決して服従ではないわ」
「そんな……」
騒ぎを聞きつけた住民たちが集まって野次馬している。救急車を呼んだり、ティミーの遺体を処理する鈴木くんの手伝いはするけど、モリスさんの手当てをするのは三人だけだ。包帯を巻く係はわたしだけで、あとの二人はわたしの補助に徹している。
まあ彼女の人柄を思うと、人を寄せ付けないのだろう。
「あなたは、わたしを見殺しにしないのね」
モリスさんが力なくわたしに言った。
できることならそうしたわよ。
「あなたのことは大嫌いよ。でも、恐竜から人間を守るのが、わたしの仕事だから」
「そう。立派な仕事ね」
救急車に乗せられるモリスさんを見送り、血生臭くなった現場をまた片付け始める。恐竜の循環器系は強力だから、血溜まりが結構大きくなる。これも適切に処理しないと、腐肉食の恐竜を呼び寄せることになる。
ティミーの遺体をトラックの荷台に積み込んだ鈴木くんが、冷めた声で呟いた。
「こいつがモリスさんに懐いているように見えましたけど、トロオドンも演技をするんすね……」
「トロオドンは群れない恐竜だから、そもそも友達というものを知らないのよ。それでもコミュニケーションのすれ違いを、ティミーは上手く利用したの。どうすれば餌を貰えるか、あの子なりに学習した結果、人間に甘える仕草をするようになったみたいね」
そして、孤独だったある人間が、その心の隙に付け入られた。ここは、人間よりもトロオドンのほうが上手だったのだろう。
さすが、最も知能が発達した恐竜と言われるだけある。
「怖っ! 性悪女みたいっすよ!」
「それも生存戦略よ。楽して獲物が釣れるなら、いくらでも媚びるものでしょ? 人間もそんなものよ」
「……アイリーンさんが可愛子ぶってるの、なんか想像できないっす」
「ティミーと一緒の穴に埋めるわよ!」
「さーせん!!」
まあ、わたしが一番心を許していたあいつは、もう喰われたけど。




