恐竜を愛する「モリス」
「ちょうどよかったわ、ハンターさんには苦情を言ってやりたかったのよ。
あなたたちって、ちょっと恐竜たちが暴れたら、すぐに『駆除』って殺しちゃうじゃない?
同じ生き物なのにどうして? かわいそうじゃない」
「わたしたちとは違う生き物だからです。放っておいたら人間が駆除されてしまいます」
「それはあなたたちが乱暴だから、あの子たちも怖がるのよ。仲良くできないの?」
「人間同士でも仲良くできないのに? 犬と恐竜の違い、分かります?」
「あなたわたしを馬鹿にしてるの!?」
バレたか。こういう嫌味が分かるくらいの知性はあるのね。
わたしたちの口論が熱を帯びて、ハレットさんが冷や汗をかきながら割って入った。
「――モリスさん、わたしたちもできる限り穏便に済ませたいんです……。駆除というのは、あくまでも最終手段です。でも実際に被害者がいますので、専門家に意見を聞かないわけには……」
ハレットさんのこのキレの悪さを見ると、普段から相当悩まされていそうだ。この時ばかりは、住民生活課の職員じゃなくてよかったと思う。
ちなみに鈴木くんは、遠くでトロオドンの痕跡を調査している。多分面倒に巻き込まれないためにわたしたちから距離を取ったのだろう。
見事な生存戦略ね。
「それなら恐竜たちを殺さないでよね。特にティミーちゃんは駄目よ?」
「……ティミー?」
「そう、ティミーちゃん。わたしのことを覚えてくれたかわいい恐竜よ」
背筋が凍るような、悪い予感がする。
「なんであなたのことを覚えているって分かるんですか? 確かにトロオドンなら人を見分けるくらいの能力はありますけど……」
「わたしが名前を呼んだら来るの」
モリスさんが嬉しそうに話しているが、どう考えてもおかしい。
「どうして呼ぶんですか? 危険ですよ?」
「ティミーちゃんは危険じゃないわ。今まで食べ物をあげても噛みついたことがないもの」
「このクソババア!!」
すべての原因はこの大馬鹿のせいじゃない!!
恐竜に餌付けなんて、ゴミ出しのルール以前のモラルハザードよ!
「く、クソババアですって!!」
「ええ、大戦犯よ! もうこのトロオドンは人を怖がることはないわ。残念だけど、ティミーは殺します!」
予想通りモリスさんが声を荒げ、顔を真っ赤にして怒る。
「ひどい! ティミーちゃんは悪くないわ!!」
「まったくその通りです! この場合はあなたの罪が重いわね」
「あの子は危なくないって言っているでしょ!! 今までわたしに噛みついたこともないし、言うことを聞いていたわ!」
「下手に出れば餌がもらえるからであって、あなたに心を許しているんじゃありません」
「ああ言えばこう言う! もういいわ!! わたしは帰るけど、ティミーちゃんは絶対殺さないでちょうだい!」
モリスさんは鼻息を荒くして去っていった。
踵を返して住宅街のほうに帰っていくモリスさんを見て、遠くで野次馬していた住民がさっと顔を背けた。冷たいほどに素っ気ない彼らの反応を見ると、モリスさんはなかなかの有名人なのだろう。
未練たらしく何か独り言を垂れながら、彼女は去っていった。
横を見れば、ハレットさんが青い顔で苦笑していた。
「感情的になって悪かったわね。どうしても許せなくて」
「い、いえ……。ホーナー組合長があんなに怒っているの、初めて見ました……」
わたしの顔色を伺いながら、ハレットさんが答えた。わたしたちの口論に巻き込まれて、この人も気の毒なことね。
「何よりも腹が立つのは、あの人の考え方がわたしと似ていることよ」
きっとモリスさんに対するわたしの評価が予想外だったのだろう。無理矢理に笑っていたハレットさんも、呆気に取られて素の表情を取り戻した。
「……似てる?」
「昔はわたしも、恐竜と人類が仲良くできないか、夢見ていたもの。生命の歴史の中でも、これほど繁栄した生き物は他にないわ」
恐竜が好きだからこの世界に入った。それこそ、一頭くらい竜脚類を飼いたいと思っていたこともある。でも、ハンターとして恐竜と向き合って知った事実がある。
「人間にとって恐竜は素晴らしい生き物だけど、恐竜たちにとって人間なんて最初から眼中にない。
だってわたしたちがいなくても、自分たちだけで生きていけるじゃない。
人間に甘えるほど弱くないの」




