胸に灯火を掲げて
BARを出て、ヒーローとレッドキャップが先頭に立ち、私と喜伊さんがそれに続く。
喜伊さんは私の後ろを守るように、足音も立てずに付き従う。
誰も、なにも喋らない。
ヒーローの静かな足音と、レッドキャップの荒い足音が嫌に響く。
歩きながらも、ポケットに手を入れ、収められた白いカードに触れる。
それはなにも応えることはない。
だけど触れずにはいられなかった。
しばらく歩くと、古びた工場が立ち並ぶ場所へと入った。
その中でも少し高い古びたビル。
その入り口で立ち止まる。
「ここが……」
思わず口から漏れた言葉。
あまりにもその場に馴染んでいて。
こんなにも当たり前のようにそこにあることに、少なからず衝撃を受けた。
ヒーローが警戒しながらも先導してビルへと入る。
その背中を追いかけるように、私も続き、喜伊さんがその後ろに続いた。
だけど、レッドキャップの乱暴な足音が続かないことに不思議に思い、振り向く。
レッドキャップはビルの入口に立って、なにかに気づいたように、遠くを見つめている。
その目は獣が獲物の痕跡を探るように細められている。
しばらく視線を這わせ───その横顔に獰猛な笑みが浮かんだ。
「先に行ってろ」
私達を見つめながら、にんまりと笑みを浮かべる。
「野暮用を済ませてくるからよ」
返事を待つことなく、レッドキャップは走り出した。
その遠ざかる背中を見つめながら、不意に貴族の少年のような格好をした───ザ・フールが思い浮かんだ。
「行こう」
ヒーローの短い言葉に頷く。
だけど、もう一度振り返る。
もう見えなくなったレッドキャップの小さい背中。
酷い怪我を負いながら、BARへと辿り着いたレッドキャップの姿が脳裏に浮かぶ。
手負いの獣のようにギラギラと瞳を妖しく輝かせ、様々な感情で歪んだ顔。
胸を握り締める。
───どうか、無事で。
口には出さず、胸の中で。
どうか、あの小憎らしい笑みを浮かべながら戻ってきてほしい。
そう祈りながら私はヒーローの後を追った。
レッドキャップを見送った後、ビルの奥へと進むと、すぐに古びたエレベーターの扉が見えてきた。
ヒーローがエレベーターの呼び出しボタンを押す。
喜伊さんが私を庇うように、前に立った。
到着を知らせる音と共に、扉が開かれる。
一瞬、空気がピリついた。
だけど、開かれた扉の中は、拍子抜けするほどなにもなかった。
前に立つヒーローが、安堵したように小さく息を吐いた 。
ヒーローがまず乗り込み、少し周囲を確認して私達を呼び寄せた。
よく使うエレベーターとは違い狭く、三人乗ると少し狭く感じる。
「お嬢様、ここにカードを」
喜伊さんが開閉ボタンの下を指さす。
私は頷き、ポケットからカードを取り出した。
二枚のカードを見つめる。
私は少し迷って、一枚のカードをそこへかざした。
たぶん、このカードは父さんの───。
なんとなく分かった。
なぜか、それを使って向かわないといけないと。
すると、なんの音もなく、扉が閉まりエレベーターが動き出した。
階表示ランプは点灯しない。
ただ、下へ、下へと沈んでいく感覚だけがある。
もう後戻りができない。
地獄の釜の底へと沈んでいくような錯覚がした。
それが私の足を少し震わせる。
思わず白いカードを握り締めた。
思い浮かんでくる父さんの顔。
最期の笑顔。
───父さん、私は。
それが私の震えを少し収めてくれた。
───守るためにここに来た。
私の想いを感じ取ったように、喜伊さんの存在が少し近くなった気がする。
だけど、私に触れることなく、ただ半歩寄り添ってくれた。
胸に熱いものが込み上げてくる。
その炎を守るように、白いカードを胸に当てた。




