託す手、進む背
レッドキャップは無造作に床に置かれていたナイフと手斧を、腰のベルトに装着していく。
ヒーローは壁に立てかけていた剣を後ろ腰に装着した。
喜伊さんは───。
「お嬢様」
不意にかけられた声。
振り向くと、硬い表情をした喜伊さんが立っていた。
いつもと変わらない、姿。
ある意味、喜伊さんは常に戦場に身を置いているつもりなのかも知れない。
喜伊さんが手に持ったものを私に差し出してくる。
白いカード、それが二枚。
「これって……」
「真様と、私のものです」
私の手を取り、カードを握らせる。
そして、その手をそっと包み込むように、喜伊さんは両手で握った。
「これから行くところは、これが必要となるでしょう……お嬢様がお持ちになった方がいいと思います」
その瞳は揺れ、表情に笑みはない。
託したくはない物を託すように。
その冷たい表情を隠す素振りもない。
今すぐ、この手を取って安全な所に連れ去りたい、そんな表情に見えた。
「喜伊さん───」
言葉が出なかった。
なにを、どう言えばいいのか。
無言で見つめ合う時間。
数秒、だけど私にとってはとても長い時間のように思えた。
ヒーローも、レッドキャップでさえも何も言わず、装備を整えながら成り行きをじっと見つめている。
そっと、喜伊さんの手が離れる。
なにも言わないまま。
私も、なにも言えないまま。
私は白いカードを、すぐにポケットに入れることなく、しばらく眺めた。
なにも書かれていない、全く同じカード。
だけど、なぜかどちらが父さんのもので、どちらが喜伊さんのものなのか、分かる気がした。
私はポケットにカードを収め、扉へと振り返る。
ヒーローが頷いて、BARの扉を開いた。
停滞していた空間が、緩やかに動き始めるように、外から風が吹き込んでくる。
ヒーローが扉を押さえ、立っている。
私を見る顔は穏やかで、どこか儚げだ。
我先にと、外へ出ようとしたレッドキャップの足が出る寸前で止まる。
何事かを考えるように虚空に視線を彷徨わせて、ヒーローとは逆側に立ち、振り向く。
にんまりと口に浮かぶ挑発的な笑顔。
私は微笑み返して、ドアマンのように佇む二人の間を通って外へと出る。
何も言わず付き従う喜伊さんを、背中に感じながら。
明るい店内から、地上へと続く仄暗い階段。
ぬくもりを感じさせない空間に、歩む足が鈍りそうになる。
だけど。
視線を上げると、地上の出口には光が差し込んでいる。
それを目指して、私は一歩一歩踏みしめるように階段を上っていった。
私のすぐ後ろには喜伊さんがいる。
見なくても、分かった。
それが、私の足を竦ませることなく、歩き続ける力となった。
その光の向こうへと。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
攻められる側だった灯達が、ついに攻勢へと転じていきます。
この先になにが待ち受けるのか。
どのような結末を迎えるのか。
楽しみにしながら読んでいただけると、幸いです。




