滲む色を探して
「───なんで?」
何度、その口から呟かれただろう。
「しらせ あかりを、ころす」
確かめるように呟かれる言葉。
裾の広がったスカートを、少し持ち上げる。
今度はじっと、露わになった自らの足を見つめる。
なにかを思い出すように。
だけど、その瞳にはなにも表れない。
ただ、不思議そうに、かくりと首を傾げる。
「しらせ あかりを、ころす───の?」
その場に、ぺたりと座り込む。
なぜ座ったのかも、MARIONETTEは分からない。
投げ出された足に、触れる。
そこに残った記憶を探るように。
「しらせ あかり……」
なぜ、自分は足に触れているのだろう。
なにを確認しようとしているのだろう。
記録には残っている。
あの時、応急処置をされた。
今は、その痕もなく真新しい脚へ変わっている。
記録を遡る。
その記録と、なにかを結び付けるように。
その時感じた、なにかを探すように。
だけど、触れても分からない。
「わたしは、しらせ あかりをころす」
もう一度、呟かれたその言葉。
その手はなぜか、触れた足を強く握り締めていた。
MARIONETTEの顔に、初めて表情のようなものが一瞬浮かんだ。
一人のスタッフが、MARIONETTEのそばを通り過ぎる。
ちらりと、MARIONETTEを横目で見る。
喋ることもなく。
まさに”人形のように”動くこともなかったMARIONETTEが、なにかを繰り返し呟く。
その異様さに、怪訝な表情を浮かべる。
だが、それどころではない。
手に握り締められた書類。
事務スタッフのトップより渡されたもの。
何度も握り締められて、端がくしゃくしゃになっている。
───本当に大丈夫なのか。
心の中で自問を繰り返しながらも、命令通り行動していく。
他のスタッフへ命令を伝えるたびに、間違いではないのかと聞き返された。
それほど、異常なことをしようとしている。
───この支部は、もう。
逃げ出したい衝動に駆られる。
だけど。
秘密裏に処理された受付嬢。
いつの間にかいなくなった、医師。
背筋が凍る。
次は自分の番になるのではないのか。
事務スタッフのトップの顔が思い浮かぶ。
指示に従うしかない。
胸に圧し掛かる重さが、足取りさえも鈍らせる。
だけど、その足を止めるわけにはいかない。
他のスタッフへと命令を伝えるたびに、その恐怖は伝播していく。
緩やかに、でも確実に。
それは、この支部をゆっくりと侵食していった。
それでもスタッフの足は、得体の知れないものに追いかけられるように進み続ける。
MARIONETTEは足に触れたまま動かない───動けないのか、それすらも分からない。
「しらせ あかり」
その名を何度呟いても、何度記録を遡っても、なにも答えは出ない。
ただ、白瀬 灯の顔と言葉だけが繰り返し再生される。
白瀬 灯の表情が、その声が。
MARIONETTEの足に触れるその手が、見つめるその瞳が。
その映像が再生されるたびに、MARIONETTEの中に何かを形作ろうとしている。
「ありが、とう……?」
不意に呟かれた、その言葉。
その言葉の意味を探るように、MARIONETTEの視線は中空を彷徨う。
その瞳に、色が滲み始めたことに気づく者はいなかった。




