想いは手にのせて
───守りたい。
自ら発した言葉を噛み締めるように、もう一度口の中で呟く。
私の咀嚼の時間を待つように、誰も言葉を発しない。
喜伊さんの手が、それを助けるように優しく肩を撫でる。
「それで、これからどうする? おじょうさまの気持ちの整理もある程度ついただろ?」
痺れを切らしたように、頬杖を突きながらレッドキャップが言う。
「そうだな、俺がこちら側に付いたことも組織は把握しているだろう。それに───」
サタンが死んだことも、と呟くように付け加えられた言葉。
ヒーローの視線が下がる。
未だ、残された傷は深い。
だけど、声に出すことができている。
視線が再び上がる。
その瞳には、昨夜のように暗いものは滲んでいなかった。
「時間はさほど残されていない。俺は攻めるべきだと思う」
異論はないとレッドキャップは笑みを浮かべながら頷く。
私の肩に触れる喜伊さんの手に力がこもる。
ヒーローもレッドキャップも、そして私さえも喜伊さんの言葉を待つ。
───いや、違う。
もう、待つだけではダメだ。
そっと、肩に触れる喜伊さんの手に、自らの右手を重ねる。
びくりと、喜伊さんの手が揺れる。
「喜伊さん」
振り向かないまま、喜伊さんの名を呼ぶ。
視線は、ヒーローとレッドキャップに向けたまま。
「私のことを考えてくれるのは嬉しい」
喜伊さんは、どんな表情をしているのだろう。
「危険な目に遭わないように、いつも私のことを想ってくれている」
たぶん、苦しい表情をしている。
私が望まないことをしようとしているから。
「だけど、それではダメだよ。私は私の意志でここにいる」
顔を見なくても分かる。
だって、こんなにも喜伊さんの手が震えてるから。
「だから、喜伊さん」
───大丈夫だよ。
想いを込めて、重ねる手に力を込める。
「行こう、私と一緒に」
いくら言葉を重ねても。
いくら味方が増えても。
喜伊さんの気持ちは、少しも和らぐことはないだろう。
それでも、私は。
想いを、手に込める。
「そして、私を守って」
私に触れるこの手で。
優しくも、固くて。
温かくも、冷たい。
喜伊さんの手で。
何度か逡巡するような息遣いを背後で感じる。
「……かしこまりました、お嬢様」
震える声。
「この命に代えても、お守りいたします」
その絞り出されたような声に、胸の奥が掴まれたような痛みを感じる。
───命に代えても。
その言葉を否定したかった。
だけど、否定するわけにはいかない。
喜伊さんの覚悟を、呑み込むように。
私は少しだけ目を閉じた。
───ありがとう。
心の中でお礼を言いながら。
言葉の代わりに、重ねた手に力を込めて。
一度大きく深呼吸をして、目を開けた。
「行こう」
ヒーローは頷く。
レッドキャップは楽しそうに笑いながら、立ち上がる。
私も椅子から立ち上がった。
喜伊さんの手が離れる。
名残惜しそうに、離れる手を感じながら私は進む。
───大丈夫、喜伊さん。
誰かの後ろに隠れるのではなく。
ただ隣に並ぶだけでもなく。
自分の背中に、喜伊さんを感じながら。
私は歩き出す。




