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操り人形に芽吹いた問い

事務スタッフのトップの笑い声が止まる。

報告をしていたスタッフは、背けていた顔を恐る恐る事務スタッフのトップの方へと戻した。


事務スタッフのトップは、一枚の書類を手に取り、見つめていた。

その姿は、先ほどの狂気の姿とは打って変わって、いつもの冷静な姿に見えた。


その書類を見ながらブツブツと呟く。

そして、その書類になにかを走り書きした。


「これの準備を」

いつもの冷静な声で、書類をスタッフへと差し出す。

スタッフは弾けるように動き、書類を受け取る。

「こ、これは……」

書類に目を落とし、受け取った手が震える。


「この支部を……こんなことって……」

青ざめた顔で、書類から目を上げ事務スタッフのトップを見つめる。

「貴方はなにも考えなくてよろしい。命令通り動きなさい」

その言葉に、それでもスタッフは動けないでいた。


「早く、手配をしなさい!」

事務スタッフのトップの一喝に、肩をびくりと震わせて、扉へと走った。


「あぁ、もう一つ」

その背中に声をかける。

「MARIONETTEを呼んでください」

スタッフは振り返ることなく、何度も頷いて部屋を出た。

「そう、私の命令通り動けばいいんですよ……」

閉まった扉に向けて、下卑た笑みを浮かべながらそう言った。



扉が閉まってから、数分も経たないうちに、再び開かれる。

ペールブルーのドレスに包まれ、同じ色のボンネットを被ったMARIONETTEが現れた。

真新しい黒いバルブトゥが地面を静かに叩く。


「白瀬 灯がここに来るはずです」

「しらせ、あかり……」

MARIONETTEは呟くように復唱した。


「そうです、白瀬 灯は必ずここへ来ます。奪われたものを取り返しに───」

忌々しいものを睨むように手元の書類に目を落とす。

それは怒りなのか、恐れなのか、事務スタッフのトップの顔が歪む。


「貴方への命令は、その白瀬 灯の抹殺です」

「まっさつ。……ころせってこと?」

カクリとMARIONETTEは首を傾げる。

「えぇ、その通りです」

MARIONETTEのガラス玉の瞳が、少し揺らいだように見える。

「───」

ほんの一拍、MARIONETTEの返答が止まる。

誰もが、命令を受諾している時間だと思うだろう。


なにを感じたのか。

なにを思ったのか。

それはMARIONETTE本人さえも分からない、空白の一拍。


「わかった。しらせ あかりを───ころす」

MARIONETTEの声に、ほんの少しノイズが混じったように聞こえた。

MARIONETTE自身も、その違和感に、かくっと首を傾げた。


「白瀬 灯以外の人間も全てです。敵対する者は全て殺しなさい」

「すべて、ころす」

命令を復唱する。

今度は微かに、指先が震えた。

MARIONETTEは不思議そうに、その震えた指先を見つめる。

だけど、今は何も異常はない。

また、カクリと首を傾げた。


「それまでは、今までと同じように待機していなさい」

話は終わりだと言いたげに、事務スタッフのトップは椅子へと座り書類を眺めだした。


「しらせ あかりをころす。てきを、すべてころす───」

与えられた命令を呟く。

声にノイズは混じらない。

指先は震えない。

だけどそれは、自らの中で命令が噛み合っていないことを確かめるようでもあった。


「しらせ あかりをころす。てきを、すべてころす───」

それを探るように、与えられた命令を繰り返す。


「しらせ あかりをころす。てきを、すべてころす───」

何度も、何度も。


「なにをしているんですか、早く持ち場に戻りなさい」

出て行かないMARIONETTEを疎ましく思ったのか、苛立ちを隠さない口調で事務スタッフのトップは言った。

MARIONETTEは返事をすることなく部屋を出て行く。



「しらせ あかりをころす。てきを、すべてころす───」

部屋を出てからも、MARIONETTEは命令を何度も呟いた。


呟くたびに、MARIONETTEの中で何かが蠢くようだった。

命令は受諾できている。

何もエラーはない。

だけど。

呟けば呟くほど、それは大きくなっていくように感じる。


「しらせ あかりをころす。てきを、すべてころす───なんで?」

足が止まる。


自らの口から出た言葉の意味が分からない。

なぜか手が、胸に当てられている。

その行動も理解できない。


カクリと首を傾げる。


「なんで、しらせ あかりをころすの───?」

子供のように、その問いの答えを求める。

だが、その問いに答える者はいない。

ガラス玉のような瞳は、答えを探し彷徨うように揺れていた。


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