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灯火は、守るために燃える

朝食を食べ終わり、喜伊さんはカウンター内で洗い物をしている。

ヒーローが手伝おうとすると「もう、よろしいでしょう?」と有無を言わさぬ笑顔で断っていた。

そのままヒーローは椅子に座って静かに出されたコーヒーを飲んでいた。

レッドキャップはどこからか持ってきたマンガをぺらぺらとめくっている。


「さて、これからどうしましょうか」

洗い物を終えた喜伊さんがタオルで手を拭きながらカウンターから出てくる。

「思いもよらぬ味方も現れ、私もレッドキャップも回復しました」

レッドキャップは鼻を鳴らし、マンガから視線を上げることはない。


「まず、情報のすり合わせをしないか?」

ヒーローは少し気まずそうに「まぁ、本来であれば昨日するべきことだったが」と付け足した。

「なにか情報はありますか? こちらにはザ・フールともう一人現れましたが───」

そこで喜伊さんはなにかを思い出したかのように、胸に手を当て言葉に詰まる。

「おそらく、その”もう一人”はしばらく戦闘には参加しないと思われます」

喜伊さんの顔色を確認するように、レッドキャップはマンガから視線を上げる。

「あぁ、アバズレが仕留め損なってなければな」

すぐに視線をマンガに落として、笑いながら茶々を入れる。


「それは俺も聞いている。本部から人員を引き寄せたと。だが、それも多くはないだろうな」

「そう、ですね。いくら相互扶助の理念があるとはいえ、限界はあるでしょうし」

考えるように喜伊さんは口に手を当てる。


「ねぇ」

私の声に、視線が集まる。

「あの……喜伊さん達のような人は、一つの支部にどのぐらいいるの?」

視線に気圧されながらも、浮かび上がった疑問を口に出す。

「……私達に近い戦力、というくくりで言えば十人程度でしょうか。ちなみに私達の支部は───」

「アタシ達の支部で、メインキャラクターとして数えるなら七人だな」

まるでマンガやゲームの登場人物を数えるように、喜伊さんの言葉に被せながらレッドキャップは言う。

「あぁ、デクノボーとサタンが死んだから五人だ」

レッドキャップは指折り数えるが、その口調は軽い。

デクノボー───父さんのことだ。

その言葉に、思わずレッドキャップを睨むように見つめる。


「なんということだ! おめでとう、おじょうさま。あなた様の下には、そのうちの三人が馳せ参じてるぜ」

おどけたように恭しく首を垂れるが、その口調は小馬鹿にしているように聞こえる。

赤いキャップの奥から、ギラリと瞳が輝く。

まるで、”早く殺してこい”という命令を待っているかのように。


「レッドキャップ、唆すような言い方はやめなさい。まだ他に人員は───」

「それも、だいぶ少なくなっているだろ」

今度はヒーローが喜伊さんの言葉を遮る。

マグカップのコーヒーを飲み干し、カウンターに置く。

「レッドキャップ粛清に駆り出されたせいで、ある程度倒しちまっただろうからな」

ポケットからタバコを取り出し、口に咥えようとする。

それを睨む喜伊さんの視線に気づき、肩をすくめながら咥えたタバコを箱へと戻した。

「しかし、本部の粛清部隊とも交戦があり───」

「それも、そう多くはないだろう。……なぁ、ハウスキーパー。なにをそんなに恐れている?」

嘲りではなく、不思議そうにヒーローは喜伊さんを見る。


「それ、は……」

喜伊さんの視線と私の視線がぶつかる。

その瞳が、揺らいでいるのが見えた。


その視線に何かを感じ取ったのか、ヒーローは一つ息を吐いた。

「……ハウスキーパー、いや、白瀬 真の娘───灯だったか?」

喜伊さんに向いていた視線が、私に向く。

なにかを見定めるような静かな瞳に、心臓の鼓動が早くなる。

「お前はなにを望み、なにを成そうとしている」

私を庇うように喜伊さんが、声を上げる。

「それは───」

「俺は、白瀬 灯に聞いてるんだ」

喜伊さんの言葉を求めていないように、少し強い口調でヒーローは言葉を続ける。


「わ、私は……」

思い知らせてやりたい。

こんな思いをさせて、笑っている人達に。


だけど───。


それを、ヒーローに言うのがなぜか憚られた。

昨夜のヒーローの姿が脳裏に浮かぶ。

自らの復讐に、ヒーローの心を巻き込んでいいのだろうか。


「そう言えば、アタシもおじょうさまの言葉を最後まで聞いていなかったな」

ヒーローの言葉に乗るように、レッドキャップも意地悪い笑みを浮かべながら顔を覗き込んでくる。


「私───」

胸に、重い物がのしかかる感覚。

呼吸が上手にできず、喘ぐように息が荒くなっていく。


喜伊さんが心配そうに私に手を伸ばす。

それを拒絶するように、私は首を振った。

これは、私一人で言わないといけないことだから。


「私はただ、これ以上、奪われたくないだけ」

一つ一つ、言葉を確認するように、ゆっくりと。

「大切な人を、大切なものを」

ヒーローを、見つめる。

「いくら、言葉を変えても、私のすることは復讐だと思う」

ヒーローはなにも言わず、ただじっと私を見つめる。

「だから、だから私は」

レッドキャップさえも、茶々を入れることなく話を聞いてくれている。

「思い知らせてやりたい。奪う人に───奪われる辛さを」


握り締めた手が。

言葉を吐き出す喉が。

熱く、滾る胸が。

痛む。


私の言葉が、私の意志が。

みんなを巻き込んでいく。

みんなを死地へと送り出してしまう。


いくら息をしても、酸素が足りない。

頭がくらくらする。


そんな私の肩を、喜伊さんがそっと支えてくれる。

ヒーローは私の言葉を呑み込むように、目を瞑る。

「白瀬 灯、それは復讐だけじゃない」

目を開き、私を見つめる瞳は、優しかった。

まるで私の苦しみを、その大きな手で汲み取ってくれるように。

「お前はただ、守りたいんだ」


守りたい───。

その言葉が、不思議と私の胸に染み込んできた。


「守り、たい……」

ヒーローの言葉を、反芻するように呟く。

私の肩に置かれた喜伊さんの手に、力がこもる。


レッドキャップはつまらなそうに鼻を鳴らす。

甘っちょろいことを、とでも言いたげに。

だけど、その口は楽しそうに弧が描かれていた。


「その守りたいもの、俺も微力ながら力を貸そう」

ヒーローは優しく微笑む。

だけど、どこか痛々しい微笑み。

守れなかったものを、今度は守ろうとしているように。

その思いまでもを利用しているように感じられ、私は笑顔を返すことができなかった。

ただ、その思いごと受け止めるように、頷いた。


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