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琥珀色の声

喜伊さんはグラスが並んだ棚から、背の低く口の大きいグラスを取り出した。

冷蔵庫から大きな氷を出して、アイスピックで器用に砕いていく。


レッドキャップは茶々を入れることなく、その姿を眺めていた。

ヒーローは視線をあげる事もなく、ただ俯いていた。


静かなBARにアイスピックが氷を砕く音が響く。

程よい大きさに削られた氷をグラスへと入れる。

いやに響く、からんと乾いた音。


喜伊さんはお酒がたくさん並ぶ棚をひと通り眺めた後、一つの瓶を取り出した。

長い首に丸い体をした透明な瓶。

銘柄はよく分からないが、ウイスキーと書かれている。

栓を開け、グラスに傾けて中身を注ぐ。

水より粘度が高そうな琥珀色の液体が氷の上を滑り、グラスを満たしていく。

ちょうど氷が半分浸かったところで、喜伊さんは注ぐのを止めた。


喜伊さんは何も言わず、静かにヒーローの前にグラスを置いた。


ヒーローは無言のまま、グラスを手に取りしばらく眺めた後、一息に呷った。

一つ大きな息を吐いて、グラスをテーブルの上に置く。

氷がグラスに当たる、小気味のいい音が静かなBARに響いた。


その様子を眺めながら、レッドキャップが面白そうに口笛を鳴らす。


喜伊さんは、ウイスキーの瓶を持ち、空いたグラスに琥珀色の液体を注ぐ。

瓶の口から、ゆっくりと流れ出る液体。

無言のまま喜伊さんもヒーローもそれを見つめる。


注ぎ終わったグラスを、ヒーローが持ち上げる。

今度は一気に呷ることなく、ゆるゆるとグラスを傾けウイスキーの中で氷を泳がせた。


そして一口、一口、今度は味わうようにゆっくりとグラスに口をつけていく。


レッドキャップも、そんなヒーローを見ながらぐびぐびと牛乳を飲む。


その二人を静かな瞳で見つめ、バーテンダーのように控える喜伊さん。


まるで三人が、それを通して会話をしているかのように。

不思議な光景だった。


「……俺はただ、救いたかった」

ぽつりと呟くようにヒーローの口から漏れた言葉。

「ただ、それだけなんだ」

殆ど空になったグラスを眺めながら。

氷越しに、なにかを見つめるように。


喜伊さんは、またグラスにウイスキーを注ぐ。

「……彼女は、最後どうでしたか?」

初めて、喜伊さんが言葉を発した。

ヒーローを見つめることなく、注ぐ琥珀色だけを見つめて。

「……笑ってたよ」

ヒーローも同じようにグラスを見つめる。

「それが、全てでしょう」

注ぎ終わった瓶を、抱えるように持ちながら喜伊さんは短く返した。

その声に、憐憫も、慰めの音もなく。

ただ、静かに。

ちらりと、喜伊さんの視線が私に向けられる。

なにを考え、想像したのか。

その静かな瞳に、胸が少し苦しくなる。


ヒーローはただ黙って、言葉を続けることなく、また一口グラスを傾ける。

その横顔は、ほんの少しだけ強張りが消えたように見えた。

肩に残った重みが、ほんの少し背中を押したように。


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