伸ばす手は振り払われて
いつも傷だらけだった貴方。
でも、その傷はいつもなにかを守ってできたものだった。
あの時、私に差し伸ばされた手。
ゴツゴツしてて、でも温かくて。
その手を握り返すと、はにかむような貴方の顔は私の心までも温かくしてくれた。
それから、貴方の後ろが私の居場所だった。
貴方の背中を見つめながら、生きてきた。
だけど、私達が”サタン”と”ヒーロー”になった瞬間から、それは崩れてしまった。
もう、今まで通りではいられなかった。
貴方が”ヒーロー”だから。
私が”サタン”だから。
私の想いだけでは、どうにもならない。
そう、これは”宿命”となった。
「私はずっと待ってた」
暗闇の中、戸惑う貴方を見つめながら。
「どうしようもないの、この気持ちは」
貴方からは私は見えない。
「抑えられなくて、苦しくて」
私を見つけて欲しい。
「貴方を見るたびに───」
この闇から引きずり出して。
「貴方の存在を感じるたびに」
捕まえて。
「この胸にどうしようもない熱が溢れてくる」
力任せにねじ伏せて。
「どうにかなってしまいそうになる」
その剣で私を貫いてほしい。
「私が”サタン”となった時から」
その気持ちとは裏腹に、私の体は動く。
「貴方が”ヒーロー”となった時から」
貴方の敵として、最大限の抵抗を。
「それでも、サタン! 違う道があるはずだ!」
未だ剣を抜かず、ヒーローは私に向かって叫ぶ。
「まだ、分からないの?」
そう、この想いはどうしようもない。
「もう、あの頃には戻れない───!」
でも、戻りたい。
「だから、だから……早く、終わらせて!!」
私達が元に戻れるとき、それはどちらかが死ぬとき。
絶叫とも呼べる私の叫びに、覚悟をしたようにヒーローは剣を抜いた。
未だ迷いの見える顔。
それは震えとなって、剣先を揺らしている。
「俺は……」
それ以上言葉が続かない。
感情がこぼれるのを食いしばるように、顔を歪ませ、俯く。
その一瞬の隙は、致命的だった。
そんなヒーローの後ろに回り、爪を振り下ろす。
闇から延びるその手を、ヒーローは躱すことができず背中で受け止めた。
肉が切り裂かれ、血が飛び散る。
呻きながらも、転がるように前に飛び出して私から離れる。
「迷う必要はない」
ぬらりと手を濡らす赤い液体。
仄かな温もりを持つそれを、啜るように舐める。
「貴方の言っていた宿命」
ぬるい液体が喉を通り、胃へと落ちていく。
それが私の背筋を震わせ、脳を揺らす。
「それを果たさない限り、私達は終わらない」
私の声を頼りに、息を荒げながら暗闇を見つめるヒーロー。
私からは見える。
だけど、貴方からは見えない。
それはまるで、私達の間に横たわる”越えられないもの”のようだった。




