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宿命は、その笑顔の裏に

住所の場所は、街の中心に建てられた高層マンション。

その中でも、ひときわ高く聳え立っている。


エントランスに入り、備え付けのインターフォンに部屋番号を打ち込む。

しばらくのコール音の後───。


「あら、早かったわね。扉を開けるから、そのままエレベーターに乗って」


通話が切れると同時に、自動ドアが開く。

そのまま進み、待ち構えるように扉が開かれたエレベーターに乗り込む。

ボタンを操作することなく扉は閉まり、勝手に上昇していく。


階を表示するランプはどんどん数字を増やしていき、最上階を示すランプが灯ると、ブザー音と共に扉が開いた。


開くと同時に、部屋の空気がエレベーターに流れ込む。

爽やかでありながら、どこか艶っぽさを感じる甘い香り。


「ようこそ、ヒーロー。私の城へ」

待ち構えるように、黒いドレスをまとったサタンが優雅な笑みを浮かべながら立っていた。


「……あぁ」

警戒をしていることを気取られないように、返事をする。

「そう緊張しないで。言ったでしょう、罠なんかじゃないって」

くすくすと笑いながらも、部屋の奥へと促す。


豪華なリビングに備えられた、細かな装飾がされたテーブルと、椅子。

触れるだけで、これも高価なものだと分かる。


テーブルを挟んで、向かい合うように座る。

メイドが慣れた手つきで、サタンと俺の前にティーカップを音も立てず置いていく。


「それで、なにが起きたんだ?」

ティーカップを一瞥しただけで、飲むこともなく本題へと入る。

「あら、せっかちね。これ、けっこう良い茶葉なのよ。少しは楽しんだらどう?」

優雅に匂いを嗅ぎながら、紅茶を楽しんでいる。

「悪いが、紅茶を楽しみにきたわけじゃない」

俺の言葉に呆れたようにサタンはため息をついた。

「つまらない男ね」

皮肉な言葉と裏腹に、表情は、楽しそうだ。


「私とマリオネットが、貴方の邪魔によって任務が失敗してから、事務スタッフトップがムキになってね。ハウスキーパーとミスターソードの娘の粛清に刺客が送られたの」

「貴方の邪魔」───その言葉と共に冷たい視線が俺に向けられる。

「だけど、それをレッドキャップに依頼したのはよかったのだけど、扱い損ねて逆にレッドキャップを敵に回してしまった」

バカよね、とおもしろそうにサタンは笑う。

「そこから事務スタッフトップはおかしくなった。執着と言ってもいいわね。二人に関係のある人間を秘密裏に処分したり、本部から人員を引き寄せたり───」

うんざりするように首を振る。

「もう、あの支部はダメよ。巻き込まれる前に離れなくちゃ、ね」


「……そうか」

想像以上の状況に、相槌を打つことしかできなかった。

まさか、そこまでひどい状況だったとは。


「どう? 満足いく回答だったかしら?」

サタンは頬杖を突きながら覗き込むように俺を見た。

答え合わせを待つように、その艶やかな赤い唇は緩く弧を描いている。


「あぁ、助かった」

頭の中でこれからのことを考えながら礼を言う。


「そう、よかった。さて、私達は巻き込まれる前に、為すべきことを済ませましょう」

その言葉の真意が分からず、サタンを見つめる。


「これ以上拗れる前に。邪魔が入る前に」

ゆらりと、サタンは立ち上がる。


「言った通り罠ではないわ。でも───」

優雅に。

艶やかに。

「まさか、お話をして、お茶を楽しんで終わりだなんて、乙女のようなことを私がするわけないでしょう?」

黒いドレスの裾がふわりと、扇情的に空気を孕む。

「ヒーロー、私はなに?」

麗しい少女の顔が、冷酷なものへと変わっていく。


「要求には対価を」


バツン、と照明が一部消える。


「知識には代償を」


さらに照明が一部消え、まるでスポットライトのようにテーブルの周囲のみが照らされる。


「選択には責任を」


ついにはお互いの真上のみの照明が残された。


「希望には絶望を」


サタンの目が俺を捉える。

ギラギラとした肉食獣のような輝き。


椅子を跳ね飛ばすように立ち上がり、腰に携えた剣の柄を握る。


「私は、サタン。闇を統べる王」

赤いマニキュアが塗られた手が、俺に向けてまっすぐ伸ばされる。

「勇者の前に立ちはだかり、戦い、狂い───そして、敗れる者」

伸ばされた手は、まるで心臓をつかみ取ろうとするように握りこまれる。

「ここには、私達を邪魔する者はいない。存分にパーティを楽しみましょう」

興奮したように、サタンの頬が紅潮していく。

「さぁ、ヒーロー。宿命を果たす時が来たわ」

その声と共に、サタンの真上の照明が消えた。

照明が照らしているのは、俺の周りだけ。


「今、俺達が争ってどうする!」

剣を抜くべきか。

抜かざるべきか。

剣の柄を握りしめながら、周囲の闇を見渡す。

そんな俺を嘲笑うように、サタンの笑い声が闇から木霊するように響いた。


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