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血の匂いがする、駒を持つ手

レッドキャップは大きく伸びをする。

立ち上がり、自らの可動域を確かめるようにゆっくりと体を伸ばす。

「よし」

満足したように、自らの手を見つめた。


「まだ、寝坊助は起きねぇか」

その言葉に頷く。


「ちんたらしやがって。……ちょっと出てくる」

目深に赤いキャップを被りなおしながら扉へと向かう。


「どこに行くの?」

「散歩だよ、散歩」

私の問いに面倒くさそうに、振り返ることなく答える。


答えた後、その足がピタリと止まった。

「……おじょうさまも一緒に来るか?」

不意に提案された、レッドキャップの誘い。

「───え?」

その意図が分からなくて、思わず変な声で聞き返してしまった。


「ヒヒッ、冗談だ。ガキ連れて散歩する趣味はねぇよ」

悪戯っぽく笑いながら、手をひらひらと振って、レッドキャップは出て行った。




BARの入口が見える廃ビルの屋上。

その縁に腰を掛けながら、風を浴びる。

周囲を警戒しながら、これからのことを思案する。


「さぁ、どうするかな」

アバズレは、しばらく起き上がれない。

アタシと違って、もともとが戦闘特化ではない。

なんでもそつなくこなすが、悪く言えば器用貧乏だ。

大抵の奴には勝てるが、変に特化した奴には勝てないことがある。


脳裏に浮かぶ、傷だらけの男。

そう、ヒーローのような得体の知れない奴とか、な。


「ヒーロー、か」

呟き、考える。

このままではジリ貧だ。

味方が、少なすぎる。

ヒーローは敵にはまわらないにしろ、味方になりえるだろうか?



長い黒髪の女が脳裏に浮かぶ。

気持ち悪ぃぐらい、ヒーローに執着している女───サタン。


あれがいる限り、すんなりとヒーローは味方に付かないだろう。

味方になったとしても、サタンという面倒くさい相手までしないといけなくなる。

「どっちも、拗らせすぎなんだよ」

勘弁してくれと、首を振る。


「あとは───」

思い浮かぶのは、マリオネット。

あいつは……分からねぇ。

あれは、操る奴次第だろうな。


「チッ」

舌打ちをし、頭をガシガシと掻く。


そもそも、アタシ一人で乗り込んでも、事務スタッフのトップは殺せる───はずだ。

だが、なにか見落としてる気もする。


脳裏にもやがかかったように事務スタッフのトップの傍に侍る存在。

なにかが、いたはずだ。

だけど、それがなんなのかハッキリしない。


本能が、警鐘を鳴らす。

その得体の知れない感覚に、思わず舌打ちをする。


それに、イグニスもいる。

アイツも厄介だ。


「あぁー、くそ!」

めんどくせぇ。

なんでアタシがこんなことで悩まなきゃいけねぇんだ。


「こういうのは、お前の仕事だろ……」

未だ眠るアバズレに悪態をつく。



行き詰った思考の奥で、黒い感情が頭をもたげる。

「───いっそのこと、すべて順番に殺しちまうか」

どうせすべて殺す。

それが、早いか遅いかの違い。

アバズレも、今なら赤子の手をひねるより楽に殺せる。

おじょうさまも、同じだ。


「まぁ、ないな」

自分で呟いときながら、そんなつまらない結末を否定する。


「もっと楽しませてもらわないとな。こっち側に付いた意味がねぇ」

尻に付いた土を払いながら立ち上がる。


今できることはなんだ?

どうすればいい?

「どうすればもっと楽しめる?」

その呟きは受け取る者もおらず、霧散していく。

仄かな血の香りだけを残して。


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