表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/70

そのぬくもりを、握り返して

海の中を漂うような浮遊感。

自分がどこにいるのかもわからない不安感。

ただ、ゆらゆらと。

波と、風に任せて動くように。


そんな私の手を引っ張るなにか。

温かく、どこか懐かしい。

私は知っている。


───あの子の、手だ。


それが私を懸命に引っ張る。

だけど、その動きに従うのも億劫で。


この微睡みに、身を委ねたままでいたい。

だけど、私はなにかを忘れている気がする。

なにかをしなければならない。


そうだ、私は帰らなければ───。


重い瞼が持ち上がる。

白い光が、私の目を焼く。


その眩さに、思わず顔を背ける。

体は気怠く、頭はまだ眠りの淵に立っている。


「喜伊さん……?」


心配そうに私を見つめる少女。

目は窪み、少しやつれたように感じる。

まだ視界はぼやけている。

それを拭おうと、何度か瞬きをする。


まだ、朧げな思考のなか。

目の前の少女が、私にとってとても大切なのは分かる。

その考えはまとまりそうで、だけど緩やかに霧散していく。


「喜伊さん……!」


少女は瞳に涙を溜め、必死に呼びかける。

私の手を握る手に力がこもる。

その温かさが、とても心地いい。


その表情が、あまりにも儚くて。

その声が、あまりにも心地よくて。

私は、再びゆるゆると眠りに落ちていった。




「目がさめたのか?」

グラスに入った飲み物を煽りながらレッドキャップが現れる。


「分からない……また、眠っちゃった」

答えながら、乱れた布団を整える。


「ちっ、寝坊助が。アタシのこと言えねぇじゃねぇか」

悪態をつきながらも、足音を立てながら自らの布団の上へと歩く。


「喜伊さん、大丈夫なのかな」

私の言葉にレッドキャップは鼻を鳴らしながら、どかりと布団の上に座った。


「知らねぇよ。それより、おじょうさまもいい加減休めよ。ぶっ倒れても世話しねぇからな」

乱暴な言葉の中に、ほんの少しの優しさが見えて、思わず笑顔になった。


「うん」

私の笑顔が気に入らなかったのか、レッドキャップは顔を少し歪める。


「ふん、似た者主従が」

吐き捨てるように言って、喜伊さんの隣の布団に潜り込んだ。


「レッドキャップ」

なんだ、と潜り込んだ布団から顔だけ出して私を見る。


「ありがとう」

その言葉に嫌そうに眉を顰めた。


「うるせぇ、早く寝ろ」

また布団をばさりと被ってしまった。


「喜伊さん」

握ったままの喜伊さんの手を、握りなおす。

息をしているのが不思議なくらい、ぐったりとした喜伊さんをレッドキャップが運んできてから2日経った。

喜伊さんは先ほどと同じように少し覚醒しては、すぐ眠りに就くことを繰り返していた。

レッドキャップに言わせれば「アタシより弱っちいから、回復に時間がかかるんだ」とのこと。


最初は不安で仕方なかった。

だけど時間が経つごとに顔色はよくなり、寝息も少し大きくなった気がする。

喜伊さんの手を握ったまま、私も横に寝転ぶ。


「喜伊さん」

返事は無いと分かりながらも、呼ばずにいられない。

はやく、いつもの微笑みを浮かべ「なんですか、お嬢様?」と返してほしくて。

ゆるやかな睡魔に身を委ねながら、私は喜伊さんの横顔を見つめ続けた。

その寝息が、途切れないことを祈りながら。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ