表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/70

灯火を胸に、外へ

レッドキャップの様子を見ながら、簡単な掃除や片付けを終える。

そして、BARの奥から戻ってきた。


「おじょう───」

名前を呼び掛けて、口をつぐむ。

バーカウンターで腕を枕に眠るお嬢様。

私の声に少し身じろぎをするが、起きることはなかった。


ふっと口から小さな笑みが漏れた。

緊張の糸が切れたのだろう。

束の間の平穏から、再び殺伐とした世界へと身を投じた。

そんな想像もできないことの連続に、疲れないわけがない。


お嬢様を起こさぬように、そっと抱きかかえる。

その腕にかかる重みに、幼き頃の影を重ね、愛おしさを感じる。

だが、その愛しい存在が抱える苦しみを思うと、言いようのない感情が胸に渦巻く。


お嬢様を抱きかかえたまま、静かに、ゆっくりと奥の部屋へと向かう。


六畳ほどの小さな私室。

そこに布団が二組敷かれている。


そのうちの一つにレッドキャップが寝ている。

私が部屋に入っても、身じろぎ一つしない。

それほどまでに消耗している。


無理もない。

あれほどの銀の銃弾を浴びて、数日も経たずザ・フールと戦い大きな傷を負った。

いくらレッドキャップとはいえ、限界が来たのだろう。


そんなレッドキャップを一瞥し、空いた布団の隣に膝を突いた。

お嬢様を抱きかかえたまま、片手で掛布団をはぐ。

そこにお嬢様を寝かせ、ゆっくりと布団を掛けた。


お嬢様の乱れた前髪を直そうと手を伸ばしたところで、背筋に悪寒のようなものが走る。

なにかが、私のテリトリーに近づいてくる。

ピリピリと首元が刺激される。

未だかつてないほど、私の感覚が警報を鳴らす。


只者ではない。

私達に近い……いや、もっと異質な存在。

喉の奥で、小さく音が鳴った。


「き、い……さん」

突如聞こえてきたお嬢様の声に、伸ばされたままの手がビクリと震える。

うなされるように、お嬢様の顔が小さくゆがむ。


躊躇うように彷徨いながらも、私の手はお嬢様の額へと届いた。

優しく、丁寧に、乱れた前髪を整える。

すると、お嬢様は安心したかのように穏やかな顔に変わった。

それが、私のざわついた心を落ち着かせる。

そのまま流れるように、髪に手を滑らせ、一房だけ持ち上げた。


目をつむり、祈るように。

静かに、深呼吸をする。


お嬢様の中にある灯火を、ひとかけらでも。

私の胸に宿るように。


覚悟を決めたように目を開け、立ち上がる。

最後にお嬢様の寝顔を見つめて、部屋の外へと足を進める。


テリトリーの中にいる者が、少しずつ近づいてくる。

ゆっくりと、まるで私が外へ出てくるのを待ち構えるように。


部屋を出る直前に、足が止まる。


「レッドキャップ」


返事は無い。

いや、無くていい。


「お嬢様を───」


自らの胸元を握り締める。

音が出るほど強く。


「お願いします」


蚊の鳴くような小さな声。

それでも血を吐き出しそうなほど、苦しかった。


やはり返事は無い。

無いのが助かった。

こんな言葉、聞いてほしくない。

その気持ちを振り払うように、早足に部屋を出た。




レッドキャップの目が静かに開かれる。

「死にたくて戦うバカがいるかよ」

呟くように吐き捨て、また目を閉じた。

その言葉は誰にも届くことなく、静かに霧散していった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ