表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/70

凄艶な祈り

もう深夜と言ってもいい時間。

路地から、BARへと続く階段の入口を見つめる。


「もう、動きそうにないな」

横に立つ相棒が、同じように入り口を見ながら言った。

数時間前に、おぼつかない足取りのRED CAPが入ってから動きはない。


「あぁ。さすがにこれから動くことはないだろう」

手負いのRED CAPを連れて攻め込んでくる、そんな愚行をするとは思えない。


「……これからどうなるんだろな」

相棒の独り言のような呟き。

それに、俺はなにも答えられずにいた。


多くの仲間は、RED CAP討伐に駆り出され物言わぬ骸となった。

受付嬢が一人、不審な状況でいなくなったのを皮切りに、事務スタッフも恐れて辞めていく者も出てきた。

医務室に控えていた医者も突然いなくなり、後を追うように助手の看護師も組織を離れた。

その全ての原因はこの支部を統括する事務スタッフトップだ。


「どうすることもできないさ」

そう、俺達がいくら考えようとどうすることもできない。

今さら普通には暮らせない。

俺達の生きる場所はここにしかない。


「俺達みたいな下っ端はRED CAPやHouse Keeperの相手にならない。だから、こうやって見張りに立つしかすることはないさ」

この支部を代表するような奴らの相手など、なにも準備が無い状態で、できるわけがない。

なんらかの趣向で立ち向かうにしろ、組織側がある程度楽しめるように準備をする。

悪戯に数に任せて立ち向かったところで、新しい骸の山ができるだけ。

いくら弱っているRED CAPを襲ったとしても、殺せる未来は想像できない。


「そうだな。他の奴らみたいに、粛清して来いなんて言われないだけマシか」

ふと、花のような甘い香りが漂ってきた。

気のせいかと、相棒に顔を向けると目が合った。


「なんだ───」

その匂いの元を探すように辺りを見回すと、道路の真ん中に女が一人立っていた。


胸元がざっくりと開いた扇情的な薄い衣装を身にまとい、その裾がゆらゆらと風に揺れている。

スカートは太ももがほとんど見えるスリットがあり、スカートの体をなしていない。

そのスリットから覗く肉感あふれるむっちりとした太もも。

柔らかそうなふくらはぎ。

キュッとしぼられた足首には月夜に輝くアンクレット。

その足には、靴は履かれていない。

顔全体を覆う薄いフェイスベールで隠れた顔からは表情は伺うことはできない。

だが、数十メートルは離れているのに、妖艶な笑みを浮かべているのがわかる。

男の情欲を掻き立てる笑み。

理由は分からないが、なぜかそう感じた。


隣で相棒が息を呑むような音が聞こえた。


───あれは危険だ。


後ろ腰に携えたナイフを抜く。

相棒は懐から銃を取り出し構えた。


女はゆっくりとステップを踏むように動き出す。

チャラリと手首のブレスレットを鳴らしながら、腕をゆっくり大きく上げ、舞うように動く。

得体の知れない焦燥感に、思わず女に向かって駆けだした。

その動きを援護するように、相棒の方から銃弾がサプレッサーを通る小気味いい音が数度聞こえる。

まるで銃弾が見えているかのように、女は舞うようにそれを躱す。


その間に女に肉薄し、ナイフを突き出す。

だが、当たらない。

ひらり、ひらりと舞うように避ける。

まるで、俺とダンスを踊るかのように。

途中で相棒の銃弾が女に向かって飛んでくるが、それも躱していく。

女はそんなに早い動きではない。

むしろ俺達だけが早送りをしているかのような錯覚をしてしまう。

その間にも焦燥感は、不安感となり、恐怖へと変わっていった。


口からは荒い息が漏れる。

鳴りそうになる奥歯を噛み締めた。


その女から離れればいい。

逃げればいい。


だけど、なぜか魅了されたかのように、体は一歩も動いてくれない。

視界の端で見える相棒の顔も、暗闇でも分かるほど青ざめていた。


───早くこの悪夢のような時間よ、終わってくれ!


そう願いながら力を込めてナイフを振るう。

その大雑把ともいえる攻撃を、女はするりと交差するように躱した。


交差する一瞬。

女は俺の頬を撫で、キスをするかのように顔を近づけ、そしてすれ違った。

なにをされたのか、分からない。

残るのは甘い香り。

縫い付けれたかのように、あんなに動いていた体は動かなくなった。


女はそのまま相棒の方へと向かう。

相棒は狂ったように、銃弾が切れたことも分からないのか、なにも打ち出さない引き金を引き続けている。

そして、女は同じように相棒にも肉薄し、すれ違った。

そしてくるくると、クライマックスに向かうかの如く、俺達から離れながら今まで以上に激しく踊る。

動けない俺達は、ステージを見る観客のように、ただ茫然とその舞を見つめていた。


そして、フィナーレを知らせるように、女は足で地面をトンっと鳴らし、止まった。

その途端、首が熱を持ち、血が噴き出した。

動くようになった手で、傷口を抑える。

今まで気づかなかったのが、信じられないような大きな切り傷。

血は止まること無く吹き出し、地面へと倒れた。


霞む視界の中、女は手を高く空に掲げている。

まるで、神に祈るかのように。


薄れゆく意識の中、他の支部での話を思い出した。

Dancerダンサーと呼ばれた女がいたこと。

神に祈る者。

神を宿すもの。


もうほとんど見えない目は、その女だけをはっきりと映し出す。

地に膝を突き、祈るその姿。

まるで俺達の死を捧げるように。

これからの戦いの供物として。


死の淵に立ちながら、その恐怖に塗れながらも。

その女の姿が神々しく美しいと感じながら、俺の意識は消えていった。


死の舞踏を舞い、死を希う。

彼女が舞い終わるとき、それは戦いが終わる時。

今はただ静かに、女は祈りを捧げる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ