表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/69

顔のない死

会議に使われるような広い部屋に、ストレッチャーが次々と助手の看護師によって運ばれてくる。

それを受け取りながら並べていく。

ストレッチャーに乗せられた、人が一人は入れそうな袋。

それを一つ一つ開けながら、確認していく。


喉を裂かれた者。

頭を斧のようなもので割られた者。

刃物で胸をめった刺しにされた者。

そのほとんどが、何度も会話を交わしたことのある顔だ。

この組織の中にある医務室で、生命を繋げるために奮っていた手は、運び込まれた死体を検死する手へと変わった。


会議室を見渡す。

そのストレッチャーに乗せられた”死体袋”が広い会議室を埋めつつある。


───やはり、間違っている。


このままではここは壊滅してしまう。

だが、事務スタッフのトップは気にしていない。

白瀬 真の受付嬢を拷問の末、殺し、それを秘密裏に処理していた。

本部にも、虚偽の報告をして粛清部隊を手配していた。

感情に駆られて動いているのか。

いくら人数をつぎ込もうが、RED CAPやHouse Keeperが粛清できるとは思えない。


数日前に自宅へと侵入してきたHouse Keeper。

あの、冷たい声と、冷酷な瞳。

思い出しても背筋が凍り、House Keeperによって剥がされた爪の傷が疼く。

そんな相手だとしても、明らかにやりすぎだ。

彼らが殺しあうことはショーとして成り立っていても、今起こっていることは職権乱用に過ぎない。

そんな個人的なことに、消耗していい命などない。


ポケットからスマートフォンを取り出す。

本部への直通のダイヤルへ電話しようと操作する。

暫く、その無機質な数字を見つめ続けた。

通話ボタンを押そうとする、包帯の巻かれた親指が震える。


これを押せば、全てが終わる。

事務スタッフのトップも。

私の所属するこの支部も。

そして、私はどこへ向かうのだろうか。


ふと、人影が視界の端に見えた気がした。

私以外、この部屋には誰もいないはずだ。

助手の看護師も、外に出て搬送されてくるストレッチャーの受け取りをしているはずだ。


顔を上げ、人影が見えたあたりを見る。

誰かがいる。

見たことがある。

記憶を掘り下げるが、誰とも合致しない。


思い出そうとして、視線を外した瞬間───。

ちょうど心臓の辺り。

そこから、ナイフの柄が生えていた。

まるで最初からそこにあったかのように。

そのあまりの違和感に、口から間抜けな声が漏れる。

だが、瞬きの間にナイフの柄はなくなっていた。

ただ、そこにはぽっかりと穴が開いていた。


男は背を向け去って行く。

動けない。

なにが起こったのか。


「あ……」

呼び止めようと声を上げるが、誰を呼び止めようとしたのか、もう分からない。

あの目の前にいる男は誰だ?

私は、なにをされた?

それさえも、分からなくなっていた。


まるで時間が再生したかのように、その胸から血が大量にあふれ出す。

確認しなくても分かる、致命傷だ。

傾いていく世界。

自らがストレッチャーをなぎ倒しながら倒れる音。

暗く濁っていく視界の中で、男は振り返ることなく去って行く。

最後まで、その男の正体が分からないまま、視界は闇に染まっていった。




「やはり、連絡を取ろうとしていたので始末しました」

突如聞こえてきた声に、事務スタッフのトップの肩がビクリと震える。

手元にあった書類から目を上げると、男が立っていた。

見覚えがあるようでない、不確かな男。


「そう、ですか。ありがとうございます」

男は依頼達成を誇ることも、顔を綻ばせることなく、ただ頷いた。


記憶と男を結びつけようとするが、なかなか纏まらず、気の抜けたような返事を返してしまう。

自分が男へ依頼したことを、なんとか結びつけることができ、やっと落ち着けた。


「今、邪魔をされても困りますからね。やっと舞台が整ってきたのですから」

もう、邪魔をする者はいない。

この男をHouse Keeperのところへ派遣できれば、話は簡単に済むだろう。

だけど、それをするには、まだ私の周りは些か騒がしい。


「舞台は整えます、仕上げは頼みましたよ」

新たな依頼に、男は表情を変えることなく頷く。


今はまだ、大丈夫。

だけど、いずれ私がこの立場から零れ落ちた時は───。

震えそうになる手を、必死で抑える。

その希薄な刃が、いずれ自分に向くかもしれない恐ろしさを感じながら。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ