悪魔の慈愛
ふと目が覚める。
真っ暗な部屋。
窓の外はまだ暗い。
寝なおそうと寝返りを打つが、なぜだか目が冴えてしまった。
飲み物を飲んで落ち着こうとリビングに入ると、通り抜ける風を感じた。
その風の方向を見ると、庭に面した掃き出し窓が開かれ、縁側に人影が見えた。
赤いキャップを被った小柄な少女の姿───レッドキャップが、ただぼうっと月を見上げていた。
「なんだ、眠れねぇのか」
月を見上げたまま、振り向くことなく背中で話しかけてくる。
「うん、なんだか目が冴えちゃって」
返事をしながらレッドキャップへ近づく。
以前よりレッドキャップに親しみを覚えてしまっている。
それは危険なことだと分かっている。
それでも、なぜか。
レッドキャップは私のことを嫌っていないと、なんとなく分かっていた。
「前から聞きたかったけどさ、なんで喜伊さんはアバズレなの?」
その親しみが、私の口を軽くしていく。
「ヒヒッ。主人を定めず、とっかえひっかえしてたからな。そんな尻軽はアバズレがお似合いだろ?」
レッドキャップは悪戯っぽく笑う。
「まぁ、今回は長そうだがな」
チラリと私に視線を向ける。
その視線が、まるで私を見定めているようで、思わず後退りしそうになった。
「だから、おじょうさま。勝手に死ぬなよ。お前はアイツの根っこなんだからよ」
笑みで大きく歪められた口。
「全てが終わった後、アタシはアバズレと戦う」
鋭く光る瞳が、私を舐める。
「アタシは腑抜けと戦う気はない。強いアイツとやりあって、そして殺す」
確定した運命を紡ぐように、レッドキャップの口から漏れ出る言葉。
笑みで歪められた口とは対照的に、その目は弧を描いていない。
そんなレッドキャップに、背筋が凍る。
「まぁ、そう寂しがるな。アバズレを殺した後に、おじょうさまはアタシが殺してやるからな」
レッドキャップの声は、まるで慈愛の手を差し伸べるように、優しい。
その言葉と表情に、私は言いようのない嫌悪感のようなものを感じた。
───レッドキャップに親しみ?
私の背丈より小さく、幼い印象のレッドキャップに幻想を抱いてしまっていたのか。
やはり、目の前にいる存在は私では測り切れない、まるで災厄の塊のようなものに思えてしまう。
「さぁ、夜が明けるぜ。争いのファンファーレが響く時だ。乗り遅れないようにしろよ。今度はおじょうさまが先頭を走る番だぜ」
東の空がほんの僅かに白み始めていた。
そんな私のことを知ってから知らずか、まだ明けきらぬ空を見ながらレッドキャップは立ち上がる。
その小さな背中に、私は恐怖を抱く。
───レッドキャップは同じ方向を向いているようで、どこに向かうかわからない。そんな危うい存在です。それはいずれ、私達に向かうことになるでしょう。
喜伊さんの言葉が脳裏に蘇る。
私の喉がゴクリと鳴った。
それでも、私は。
私の決意の為に、共に歩くしかない。
体の震えを抑えるように、強く拳を握った。
目の前の災厄に飲み込まれそうになるのを、抗うように。




