表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/70

代償の夜に震えて

家に戻って、喜伊さんと布団を隣り合わせで寝る。

喜伊さんはいつも通り仰向けに静かに寝ている。

私は何度も寝返りを打つ。

眠れない。

目を瞑り、寝ようとすればするほど、目が冴える。


───倒して、喜伊さん。


自分が初めて喜伊さんに命じて人の命を奪った。

命じなければ殺されていたのは私達だ。

進むと決めたのも私。

喜伊さんだけに任せて、私だけが高みの見物を決めるのを拒否したのも私。

だから、私は間違っていない、間違っていない、間違っていない……。


だけど。


倒れた男たちのそばを通り過ぎる時も、できるだけ見ないようにしていた。

それが、今はなぜかはっきりと男たちが絶命する瞬間の顔が浮かんでくる。

怨嗟の顔で私を睨む。

口はなにかを言おうと動いている。

聞かなければ、見なければいいのに、私は見続けてしまう。


───倒せ、倒せ、倒せ、倒せ……。


私の言葉を延々と繰り返している。

無駄だと分かっていながら、私は目を瞑り、耳を塞ぐ。

だが、瞼の裏で男たちの顔が、塞いだ耳の奥で男たちの声が聞こえる。

男たちの顔や声は、私や喜伊さん、お父さんの顔に次々と変わっていく。


やめて。

男たちの顔は消えない。

やめて。

男たちの声は止まらない。

やめて……。

男たちは止まらない。


───うるさい!


その思いに、怯むように男たちの声は止まる。

私は、決めたんだ。

お前達に思い知らせてやると。

私が味わった悲しみを。

苦しみを。

だから、自業自得なんだ。

未だ震える体を自らの腕で抱きしめる。


怖い。

この手にある力を振るうのが。

その振るった結末が。

そして、私の胸に蠢く恐怖とは違う昂りが。


だけど、私は悪くない。

謝罪はしない。

この血塗れの道を選んだことを後悔はしない。

するわけにはいかない。

してしまったら、私のあの時の覚悟が否定されてしまう。


より強く自らを掻き抱く。

私が貴方達に後悔や謝罪をするときは、

私が歩けなくなり、倒れるときだ。




隣で何度も寝返りを打つお嬢様の気配を感じる。

眠れないのだろう。

初めて自らの言葉で、意思で人を倒せと命じられた。

間接的にとはいえ、人を殺したのだ。


横目でお嬢様を見ると、布団を頭から被り震えている。

思わず、その布団の上から抱きしめ、慰めたい衝動に駆られる。

だが、それをするわけにはいかない。


お嬢様は戦っていらっしゃる。

自責の念と。

自らの罪と。

それを私が摘み取るわけにはいかない。

それは優しさでも、慰めでもない。

戦っているお嬢様を侮辱することになる。

拳を強く握り締め、心の中でただ願う。


───お嬢様、大丈夫です。きっと貴方は再び立ち上がり、飛び立つことができます。その時がくるまで喜伊は、お側に控えておりますから。


息を整えるように、静かに深く深呼吸をする。


───好きなように生きる、それが”アタシ達”だろ?


不意に蘇る、レッドキャップの言葉。

その言葉に思わず奥歯を噛み締める。

レッドキャップの言葉がずっと頭から離れないでいた。


分かっている。

私はお前が羨ましいのだ。

好きなように生きていけるレッドキャップが。

なにも取り繕うことなく、着飾ることもなく、ただ自分の欲望のままに生きていることが。


手に蘇る二人の男を殺めた時の感触。

私は高揚していた。

この力を振ることを。

簡単に命を奪うことができる全能感。

お嬢様の命令で、動ける喜び。


───自分の性を、根底を否定すんなよ。立ち位置が違うだけで、根っこは同じだ。


そうだ。

その通りなんだレッドキャップ。

私はお前に同族嫌悪をしてるだけなんだ。


今だ震えているお嬢様を見つめる。

お嬢様、私はあなたが羨ましい。

自分の気持ちを取り繕うことなく言葉にできて。

素直に行動に移せるあなたが。

眩しく、そして───。

胸の中に蠢く仄暗い感情。

そんなあなたを導き、育てる喜び。


その邪な気持ちを振り払うように、お嬢様に背を向ける。

なにを馬鹿なことを。

主人に抱く感情ではない。


───いつまでも、てめぇとおじょうさまを欺けると思うなよ。


それも分かっている。

この感情は、思いは、いずれ伝わるだろう。

私がなにを思っているのか、なんのために存在しているのか、そして私はなんなのか。

それをお伝えするのは今ではない。

主従の夜は更けていく。

それぞれの存在意義に苦しめられながら。




事務スタッフのトップは、いつもの事務机に座り頭を抱えていた。

未だHouse Keeperの行方は不透明なままだ。

RED CAPが向かった先が怪しいと考え、捜索隊を差し向けるが悉くを処理されていく。

これ以上、人員を無駄にするわけにはいかない。


一体、私はどこで間違えてしまったのか。

契約が切れたと判断し、House Keeperを取り戻そうとしたのが悪かったのか。

そして最悪なのが、あのRED CAPを敵にまわしてしまったことだ。


もう、私も危うい。

机に備えられた電話を見つめる。

あの電話がいつ鳴り響くのか。

それがなにより怖い。


机に広げられた書類。

平凡な少女───白瀬 灯の写真が貼られている。

Mr.swordと白瀬 真の娘。


「お前はなにがしたい、復讐なのか?」

その書類をシワが寄るほど強く握りしめる。


「お前さえいなければ」

もうなりふりを構っていられない。

House KeeperもRED CAPも、邪魔をするのであれば、組織に立ち向かうのであれば。


「我々に刃向かった事を後悔するといい」

しわくちゃになった白瀬 灯の下に文字を書く。


「復讐をしたければするがいい。父親と同じような結果となるだけだ」

赤い字で”Revenger(復讐者)”と書かれた書類。

その瞬間、平凡な少女という記録は、静かに上書きされた。


机の上に置かれた電話の受話器を取る。

「復讐をしたければするがいい。贖いを求めるのなら来るがいい。もう、私は容赦しない」

甘んじて粛清の道を歩むぐらいなら、諸共滅ぼしてやる。

電話の通知音を聞きながら、私は決意した。

その進む先が、どう足掻いても破滅への道だと気付きながらも。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ