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悍ましさを握り締めて

来た道を戻り、家へと着いた。

何も起こってないような静けさ。


「お嬢様」

喜伊さんが警戒するように私の前に立った。


「なんだよ、戻ってきたのか?」

その声と共に、庭の方からレッドキャップが現れた。


「逃げるんじゃなかったのか?」

ヒヒッと笑いながら、頬についたものを拭う。

それは赤い線を残した。

暗がりでもわかる、血だ。


「仲間じゃなかったんですか?」

喜伊さんの言葉にレッドキャップは不愉快そうに鼻を鳴らす。


「アタシの邪魔をする奴らだぜ?」

まだ湿り気が残る腰に下げたものを撫でた。

その動きに、喜伊さんがあからさまに警戒をする。


「少し、聞きたいんだけど」

その喜伊さんの横に立ち、レッドキャップへと話しかける。


「あなたは、敵なの?」

その言葉にレッドキャップが吹き出す。


「ヒヒヒッ。敵なのかだってさ。なぁ、アバズレ。どうなんだよ」

腹を抱えて笑いながら、喜伊さんへと話を振る。


「……味方ではありません」

喜伊さんは言葉を選ぶように、少し間を置いて言った。


「それで、おじょうさま。敵じゃなかったらどうするんだ」

小馬鹿にするように、私に問いかける。

その呼び方に、一瞬だけ言葉を失う。

レッドキャップが、初めて私を認識したような気がしたからだ。


「……敵ではないなら、お互い争う必要はないはずよね」

急な呼び名の変わりように面食らいながらも、話を続ける。


「ふーん」

レッドキャップはおもしろそうに、私の言葉を噛み締める。


「協力してとは言わない。だけど、今ここであなたと争う理由はないはず」

レッドキャップはニヤニヤと私の言葉を待つ。


「それに……私は、知りたいだけなの」

その言葉にレッドキャップはつまらなそうに、眉をひそめる。

「知りたいだけだ? 良い子ぶるなよ、違うだろ。そこを履き違えるな。お前は、そんなのを望んでいない。本当のことを言えよ、お前の根底にあるものを」

帽子の影からチラリと見える目が、私を見通すように睨む。

その鋭い視線に思わず怯む。


「わ、私は───」


胸に手を当てた。

そこに感じる仄暗く、微かに燃えるもの。

それが、レッドキャップの言葉で燃え上がる。


「お嬢様?」

私は知らないうちに、庇うように立つ喜伊さんの服の裾を強く握りしめていた。


「思い知らせてやりたい! こんな思いをさせた人たちに!」


その言葉に、喜伊さんは驚き、レッドキャップは嬉しそうに口を歪める。


「私の大事な人を奪ったことが許せない! 私は、私は───」


胸が苦しい。

今まで我慢していた、胸の奥に蠢いた大きな塊を吐き出すように。


「……奪った人が、憎い!」


叫ぶように吐き出されたその言葉。

胸が痛む。

そんな感情を口にしてしまった自分が、少しだけ怖かった。


「そうだ、そうだろう! 格好つけるな、目を逸らすな! 憎い奴らを、どうしたいんだ?」

煽るように、嬉しそうに声を上げるレッドキャップ。

言葉を続けようとするが、口から出る荒い息が邪魔をする。


「レッドキャップ、それ以上は───」

レッドキャップの視線から、私を遮るように喜伊さんが動く。

「アバズレ、甘やかすな。自らの言葉で言わないと意味がねぇ」

その動きにレッドキャップの声は不機嫌そうだ。

「これから何をするのか、分かってんだろ? その先で何を失うのかも」

喜伊さんの影から聞こえるレッドキャップの声。

レッドキャップの声は、さっきまでの軽さが消え、大人の女の低い響きを帯びていた。


「喜伊さん、大丈夫」

息が整い、前に立ってくれている喜伊さんを、そっと押しのけた。


「私は、大丈夫」

レッドキャップをまっすぐ見る。

そんな私を見て、レッドキャップは鼻を鳴らす。

「まだまだ甘いな。だが、いい目になったなぁ」

舌なめずりをするように、レッドキャップは口を歪ませる。

「いいぜ、今はまだお前達を殺さないでおいてやる。……まだまだ面白くなりそうだからな」

ヒヒッと笑いながら、レッドキャップは軽い足取りで森の中へと戻っていく。


「だが、気をつけろよ。いつまでも甘っちょろいままでいると、いつかアタシに後ろから刺されるぜ」

振り返ること無く、笑いながら闇へととけていった。

その言葉が私にあてたものか、喜伊さんにあてたものか分からないまま。




「お嬢様」

レッドキャップが去った方向を見たまま、硬い表情をした喜伊さん。


「敵の敵は味方ではありません。レッドキャップは同じ方向を向いているようで、どこに向かうかわからない。そんな危うい存在です」

その視線が私に向く。


「それはいずれ、私達に向かうことになるでしょう」

そんな喜伊さんに微笑む。

「うん。だけど、今は同じ方向を向いてる」

心配そうに揺れる喜伊さんの瞳。

その瞳を見つめながら私は言葉を続ける。


「私達が進むべき道は、もう決まっているから」

その道は自ら選んだ道なのか、それとも選ばされたものなのか。

自分でも分からない。

だけど、吐き出した言葉は嘘ではない。

喜伊さんは、なにかを言いかけて口を開けたが、言葉が紡がれることはなかった。


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