第十五章 開幕のとき来る 六話
アッシュとネムイがリンのアメーバ除去に取り掛かる少し前から、ライアの姿は無かった。
「はあっ! ハアッ! カズイ! カズイッ!」
ライアはダージュが殺されて間もなくして、カズイの居る、ダージュ・オブ・ゲーヘントの装置に向かって全力疾走していた。
どけっ! どいてくれ! と院内の通路などで通行する妨げとなる患者やナース、医師などに道を譲ってもらうため、怒号を上げながらかけ走っていく。
そして、隠し通路を通っていき、血生臭い実験室や、銃火器が置かれている鉄臭い部屋を横切っていく。
着くなり、螺旋式の金庫の様な扉は開いていた。
「あれ? そもそも、ここの扉は、ダージュ先生の指紋認証がなければ通れないんじゃ? 俺様てっきり、カズイはどの道、この中に入れないと思って、カズイが生贄になる事は無いって、思ってたのに。なんでだよ、何で空いてんだよ⁉」
開いている扉の前で困惑し、動揺するライア。
だが、すぐにライアは気持ちを切り替えた。
切り替えたと言うより、それは強制的な物だった。
何故なら、指紋認証の扉が開いていると言う事は、カズイはダージュ・オブ・ゲーヘントを起動していると言う事だ。
ライアは一心不乱で中に入る。
すると、大量のマウスが両サイド、びっしりと埋める中、中央で何やら光り輝いていた。
「はっ? カズイ⁉」
ライアは急いで中央にある装置に向かって行く。
すると、黄金色の繭が、カズイサイズにまでなる様、カズイを包み込んでいた。
光の輝き方が、徐々に増していく。
「くそっ! こんなもん、ぶっ壊してやる!」
ライアは正気ではなかった。
大切な仲間が、一番嫌っている人間のために命を捧げるなど、冗談で欲しかった。
カズイと交わした言葉は、何の意味も持たないくらい、ライアを、凶変させていた。
カズイを囲んでいるケースを壊そうと、殴り、蹴り、体当たりなどしてみるが、びくともしなかった。
もう、どうしようもないのか、と絶望していくライアに、いつの間にか、七色の虹のような光を放っていたカズイが「ライア」と優しく言葉をかけてくれた。
その言葉に、肩から息をしていたライアが気付くと、口を半開きにし、目を大きく見開きながら、カズイの方に身体を向ける。
すると「ライア。この先、お前たちに託したぞ」と弱々しい声を振り絞るカズイ。
そう言いながら、黄金色に包まれ繭を着たまま、ゆっくりと右腕を肩幅あたりにまで上げると、親指を立てる。
「か……ず……い」
泣き崩れる様にして、カズイの最後を見届ける事しか出来なかったライア。
その直後、黄金色の繭は、まるで、カズイを中で消化でもするような勢いで、黄金色の繭が、じゅーと言う音を立てながら、繭はしぼんでいき、気付けば、カズイを覆っていた黄金色の繭は、手のひらサイズの大きさにまで縮んでいた。
「あ、あ、あ」
その現実を受け入れられなかったライアは、膝から崩れ落ちる。
「くそ、何が人を救うのに理由を求めたらだめだよ! 医者だって人間なんだぞ! 嫌っている人間のために、最高のダチが失う理由があっていいわけないだろ! なあ! カズイ――――!」
どこまでも、どこまでも、施設の中に居ると言うのに、天にまで届けようと、ライアは、自分の思いの丈を爆発させていた。




