第十五章 開幕のとき来る 五話
その予想が的中するかのように、何発もの発砲音が、手術室から鳴る。
肩をビクリと跳ねらせたライアは、まさかと思い、恐る恐るダクトの隙間から、中を覗き見る。
「だ、ダージュ先生⁉」
「嘘⁉ な、なんで⁉ あんたたち! 何してるのよ⁉」
「ふ、フハハハハハッ! やった! やったぞ! 等々、ダージュのクソ野郎の息の根を止めてやったぜ!」
「や、やったな!」
アッシュとネムイが、慌てながら、額と腹部や心臓付近を何発も撃たれ、即死したダージュの亡骸を抱え、ハンドガンをいつの間にか手にし、喜びに打ち震えている二人の男性医師に向け、厳しく激怒する。
しかし、二人は気でも狂ったかのように凶変した笑みを浮かびあげる。
それを見ていたライアは気が動転しそうになった。
すると。
「楽しかったぜ。君たちと共に過ごした日々は、俺に取って、掛け替えのない宝物だ。あの世に行って待ってる。長生きしてからこっちに来いよ」
「――お、おい! カズイ⁉ カズイ⁉」
暖かい声音。
カズイは、温もりある言の葉を綴った。
しかし、ライアは酷く狼狽する。
周囲に気付かれる事などお構いなしに、声を上げるが、二人の男性医師の声量にかき消されてしまう。
こうして、カズイからの無線は途絶えてしまった。
「……さて、やるとするか……」
ダージュ・オブ・ゲーヘントの装置の前で、一人、静かに覚悟を固めたカズイ。
装置に置かれていた、黄金色の繭のような布。
それを身に纏って、死者蘇生ボタンを押せば、死者蘇生が可能になる。
カズイは、念のためと思い、装置を起動すると、パネルに表示されている、蘇生名簿の一覧を確認した。
液晶パネルに、数えきれないほどの死者の名前が、リストアップされる。
一からダージュやトードの名前など見ていられなかったため、検索操作を行う事に。
「どれどれ……よし、トードたちもダージュ・オブ・ゲーヘントの蘇生対象になってるな。ダージュ先生は……、いや待てよ。そもそもダージュ先生は自分が死ぬ事を考えてないと、この装置に自分の名前を書き込んだりしないだろうな。俺が新しく追加しておくか。ん⁉ こ、これは、まさか……あの人、まさか、ここまで読んでいたのか?……」
順調に見ていたが、ダージュの蘇生項目に目を疑う内容が。
一体、カズイは何を目にしたのか?
だが、これ以上、考えても仕方ない。
そう思ったカズイは、ある人物に呆れながらも、黄金色の繭のような布を自分の身に被せていく。
一方、アッシュたちの現場はパニックになっていた。
「アハハハハハッ」
「フヘヒャヒャヒャヒャ!」
ダージュを撃ち殺した男子医学生二人は、ダージュを殺した喜びからかは知らないが、気が向上し、ハイ状態になっていた。
所かまわず、残りの弾を撃っていき、アッシュとネムイはリンの体に弾が当たらない様、覆いかぶさるようにして身を挺して守る。
乱射しながらも、手術室を出ていく二人の医学生。
「な、何をしている貴様ら⁉」
「うるせーー! お前らダージュの取り巻き共も目障りだったんだよ!」
「死ねーー!」
ドンドン!
バンバン!
オペ室から出るや否や、オペ室前で警備をしていたSP二人が慌てていると、最初から撃つき満々の二人の医師たちは先手を取り、透かさずSP二人を射殺し、そのままどこかへ走り出してしまった。
騒ぎが収まった頃合いだと思い、アッシュが庇っていたリンから離れる。
周囲を確認してみると、至る所で機材が撃ち壊されていた。
それは同時に絶望する事になる。
ピーー! ピーー!
なんと、バイタルを測っていた機械までもが壊されていた。
それだけでなく、手術支援用のロボット、輸血用の点滴までもが壊され、ダージュの血と混ざり合うかのように床一面が血の海になっていた。
幸いなことに、リンだけでなく、それを庇っていたアッシュたちも無傷で済んだ。
「くそ! ここまで医療器具が壊れてたら」
壊れた機材の中には、脳の中を見るために必要な、手術顕微鏡用カメラシステムまでもが。
そこで、ネムイが動く。
「こうなったら肉眼でどうにかするわよ! 早く鑷子、持ってきて! 二人でやるのよ!」
「あ、ああ」
それ以外、手はなく、居たたまれない思いでネムイの言う通りにアッシュは動く。
替えの医療器具を持ってくる時間などない。
そんな事は、輸血用の血が壊されてしまった時点で決まっていた。
替えの血も底をついた。
ネムイの言葉は、これ以上ない、合理的な解決策だった。
だが、いざ肉眼だよりで手を動かそうとするアッシュの手は震えてしまう。
それを見たネムイは、切迫した表情で「アッシュ! 今は最悪な事態なだけであって、結果は決まってないわ! 私たちがミスをするかどうかで、リンちゃんの未来が決まるのよ! だから、お兄ちゃんならもっとしっかりしなさい!」と激を飛ばす。
すると、アッシュは酷く動揺する中で、気持ちを押し殺す様に自分に言い聞かせると、リンの寝顔をじっと見る。
今にでも死にそうなくらい、顔が青くなってきていた。
それは全身にまで広がっていく。
そこからだった、アッシュがリンのためにと思い、何が何でも救ってやると言う想いが、絶望に打ち勝った。
「ネムイ、輸血用の血が無くなった以上、時間との勝負だ。十分以内に終わらせるぞ」
「え、ええ。やりまじょう」
鋭くなった鋭敏な眼差しのアッシュに、少し気迫負けでもしたかのようなネムイだったが、頼りがいのある顔と言葉に、スイッチが切り替わる。
果たして、リンの命の行方は……。
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