第十五章 開幕のとき来る 三話
一方、カズイたちは、リンの手術室から少し離れた所で、息を整えながら話し合っていた。
「どうするカズイ?」
「……」
眉を顰めながらカズイに意見を聞こうとするライアだが、カズイは一人、何かを考えてる素振りを取る。
俯きながら、これしかないのか、と自分自身に言い聞かせるように、辛そうな表情をしていた。
「……カズイ?」
それを察したのか、ライアは囁く様に口にする。
「……なあライア、君に頼みたい事がある」
まるで覚悟を決めたかのように、険しい表情をライアに向けるカズイ。
ライアは言葉が出てこず、呆然と立ちつくすかのように、ただ黙ってカズイの話を聞いた。
「――はあ⁉ 自分が生贄になる⁉ 何言ってんだお前⁉」
「――これしか方法がない」
カズイの話に激昂するライア。
だがカズイはぶれない。
それどころか、どこか澄んだ瞳をライアに向けていた。
ライアは一度落ち着こうと、深く深呼吸をする。
「あのなカズイ。お前が生贄になってダージュ先生を助けるなんて、ハッキリ言って意味がない。あの場でダージュ先生に恨みを持ってる医師たちが仮にダージュ先生を殺しても、リンちゃんの寄生虫の除去なんてネムイとアッシュにだってもう出来るんだ。そのために三日間、猛特訓してきたんだ。おまけにダージュ先生なんて死んで当然の悪行を積んできた。助ける価値何てない」
怒りを抑えようとしながら、熱くならないように細心の注意を払いながらカズイを説得するライア。
だがカズイの意思は確固たるものだった。
「……ライア、落ち着いてよく聞いてくれ。君のそれは感情論だ。今、ダージュ先生が死ねば、あのダージュ・オブ・ゲーヘントは闇に葬られたままになる。発案者が居てこそ、この先、告訴できる鍵になんだ。今までの事を償わせたかったら、生きたまま罪人として扱われるべきなんだ」
「だからって、なんでお前が生贄になるって話に何だよ。ダージュ先生が殺されたくなかったら、あのSPたちを実力行使で排除して、ダージュ先生を捕獲でもなんなりすればいいだろ? なんでそう言う可能背が出てこないんだよ?」
「それは悪手だ。誰かを犠牲にする正義などあってはならない。死人が出たら元も子もない。正義やヒーローの手は、誰かを救うためのものだ。人に危害を加える前提の物ではない」
「別に俺様は、正義やヒーローになりたいわけじゃない。俺様はただ、仲間を、友達を、失いたくないんだ。そのためなら、俺様は――」
等々、泣き出してしまったライア。
ライアは嗚咽を漏らしながらも、必死に言葉を繋ごうとした。仲間や友達との絆を守るために。
「分かってる。君が誰よりも仲間想いで妹想いなのかも。だからこそ、俺にも譲れない物もある」
「な、なんだよ、それ?」
「医師としての誇りだ。誰かを救うのに理由がなければなんてのは医師として致命的だ。だから俺は、誰でも救う。これはダージュ先生のロジックでも何でもない。俺自身の医師として、土台であり糧なんだ」
納得してもらおうと、言の葉に優しさを込めるカズイ。
そんなカズイの熱意が、次第にライアの心の波を穏やかにしてくれた。
「何が誇りだよ。そんなんで人間やってけるわけないだろ」
涙を拭いながら、ムスッとするライア。
「ああ、そうだな。だが何かを成し遂げたいと言う想いには、意思や誇りが無くては、到底、成り立たない。それもまた人としての尊厳だ」
完全に言い負かされてしまったライアは、再び、気持ちを落ち着かせようと深く深呼吸をする。
「……分かった。でもまだダージュ先生が殺される可能性があると言うだけで結論じゃないからな。それともう一つ、リンちゃんが治ったら、俺様たち五人で、あいつに一泡、吹かせるぞ」
「ああ、約束だ」
ライアの力強い言葉と目が、カズイの五感を奮い立たせるかのように、やる気で満ち溢れてきた。
こうして、カズイの指示で、ライアは無線機を持ち、リンがいる手術室に通じるダクトを通り、覗き穴から手術室の様子を伺い、ダージュ・オブ・ゲーヘントの装置の前でスタンバっているカズイに事実を告げると言う作戦を伝える。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
今回の投稿はここまでです。
次回からも是非ご一読ください。
よろしくお願いします。




