第十五章 開幕のとき来る 二話
少しして、ライアたちが食堂で時間を気にしている時に、一人の女性看護師がライアたちに寄ってくる。
「ん? どうした?」
女性看護師が、何か言いたげなのか、ライアたちの前で薄暗い表情を見せる。
「あ、あの。アッシュ先生の妹さんの手術で立ち会う、医師の人たちの事を知ってますか?」
「え? それってアッシュとネムイの事だろ?」
「ああ。そのはずだ」
訝しい表情をするライアとカズイ。
しかし、それを聞いた女性看護師が首を横に何度も振るう。
「ち、違うんです。実は、後二人の医師たちが立ち会うのですが、その二人の男性医師たちは、この前、ここでダージュ先生に謀反を起こそうとした人たちだったんです」
「えっ! ほんとかそれ⁉」
「あ、はい。今回、ダージュ先生がオペをする患者のリンちゃんとは私も仲良しだったので、万が一、リンちゃんがオペ中に、その男性医師たちが、何か良からぬ事でもするのではないかと思って、居てもたっても居られず、お二人にお伝えしようと思いまして」
オドオドしながら口にする女性看護師の両肩をがっしり握っていたライアの顔色が一瞬にして青ざめる。
「おい! カズイ!」
「ああ。すぐに手術室に向かおう」
「おう! ありがとな、教えてくれて」
ライアたちが急いで立ち上がり、手術室に向かって行った。
到着すると、二人のSPが、両手を後ろに組んで手術室の前で立っていた。
黒いサングラスとスーツを着て、如何にも腕の立つ風貌。
「おい! 中に入らしてもらうぞ!」
「駄目だ。いますぐ自分たちの持ち場へ戻れ。お前たちは、この後、診断時間のはずだ」
「急を要する。ダージュ先生の命が危ない。今いるアッシュとネムイ以外の医師二人が、ダージュ先生に危害を加える可能性が高い。だから今すぐダージュ先生の身辺警護が必要なんだ」
ライアとカズイが必死になって重要性を伝えようとするが、二人のSP二人は首を横に振るだけ。
「如何なる時でも手術中に第三者が介入しようものなら、ダージュ先生は迷わずその不埒者を殺すだろう。その責任は我々に問われる可能性が高い。なのでお前たちにはご退場、願おう」
不敵な笑みをライアたちに向けながら、何とハンドガンを腰から取り出し、その銃口をライアたちに向ける。
「くそっ! 結局自分たちの保身のためだろ! お前たちがやってるのは⁉」
「ふん、最後の遺言はそれで良いのか?」
「逃げるぞ! ライア!」
「ちっ!」
バン! バン! バン!
引き金を引こうとするその一瞬を見逃さなかったカズイがライアに声を上げると、二人は振り向き走り出す。
その直後、ライアたちに向け発砲するSPの二人。
不幸中の幸いか、その弾は当たる事は無かったが、二人は悔しさで吐き気がする程の不快感を感じていた。
その頃、銃声を聞いたアッシュたちがすくみ上がる。
だが、ダージュだけが何も変わらず、黙々とアメーバの除去をしていた。
「い、今のは?」
「周囲の騒音など気にするな。患者にだけ目を向けろ。いつどんな時であろうとな」
「う、ウイッ、ウィー」
アッシュが狼狽していると、ダージュが太い声で宥める。
アッシュたちは再びリンの脳に目を向ける。
とてつもない手さばきでアメーバをピンセットで次々と掴み、除去していくダージュ。
まるでビデオを八倍速のスピードで見ている様な気分にさせられる。
「今回、リンちゃんに寄生している新種のアメーバの数は、七百匹を超ええてるわ」
「ああ。だが、今のダージュ先生のスピードなら、後、二時間もかからないぞ。本当に凄いな」
尊敬を通り越してむしろ呆れてしまう程、そのダージュの手腕に呆けて見てしまうアッシュ。
ネムイは本当にダージュが人間なのか? と疑ってしまうばかりだった。
だが、この時、ダージュに復讐の牙が突きつけられる事に、アッシュとネムイには想定できなかった。
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