第十四章 愛と遭い 五話
そして、三日後の月日が経った。
アッシュたちは不安げな面持ちで、ダージュの医務室に足を運んでいた。
「ふうー。いよいよか」
「ああ。俺様たちが成し遂げた力、見せてやろうぜ」
「何言ってんのよ。まだ通過点の内の一つを過ぎただけでしょ」
「そうだな。本番はここからだ」
アッシュたちは廊下を歩きながら、互いに奮起の言葉を交わし合っていた。
なんとか、寄生虫と脳梗塞の同時手術に、御遺体を使わせていただいた甲斐あって成功し、自身に満ちている表情をしている。
だが、ある懸念があるのも事実。
「ねえ、確かに手術に成功する確率はほぼあると言っても過言じゃないけど、アッシュがダージュと契約したって言う、あの話は本当に大丈夫なの?」
ネムイの表情が曇りかかる。
「無論だ。君たちも知っての通り、大統領署名なんてものは、公にして、初めて効力を発揮する。水面下で通る署名など聞いた事も無い」
「だな。安心しろネムイ。姉ちゃんがついてるから」
「はあー。一気に不安が増したわ」
「おいっ」
カズイの最もな言葉。
だが、どこか引っかかる。
そう思うカズイでもあった。
仲間のため、敢えてああ言ったが、内心、一番不安を感じていたのはカズイでもあった。
そして、ダージュの医務室の扉の前に立つアッシュたち。
「はあーふうーー。……行くぞ」
アッシュが深く深呼吸をし、気持ちを落ち着かせると、覚悟を決めた面持ちになる。
その言葉にネムイたちもキリっとした目で力強く頷く。
コンコン。
「ダージュ先生。アッシュです」
「……入れ」
アッシュの言葉の後に、少し間を置き、低い声音で帰ってきた言葉。
その声にアッシュたちに緊張の糸が絡んでいく。
「失礼します」
四人でぞろぞろとダージュの医務室に入ると、ダージュはそれを睨みつける。
「何の用だ?」
四人が居た事に意外と思っていたのか、少し警戒するダージュ。
アッシュたちは、腰を落ち着かせて座っているダージュの前に横一列になって立ち止まった。
「もちろん、リンの手術についてです。あの話は無かったことにしていただきたい」
「なんだと?」
アッシュは一切の躊躇もなく言い放つと、ダージュの眉は益々、尖っていった。
すると、ダージュは一枚の用紙を引き出しから無造作に取り出し、テーブルの前に投げ捨てるように置く。
「忘れたか? お前は既に私と契約している。母印も押し、後には引き返せない。お前たちがどれだけスキルを磨いて妹を治療させてくれと言っても、不可能だ。諦めて、私の指示に従え」
「いや、破棄するしない以前の問題です。これは大統領署名と言っていましたが、実際、ニュースや新聞などには一切、記載されていません。市民が知らない条約などあるはずがない。あれは貴方のブラフだ。違いますか?」
カズイがここぞとばかりに攻める言葉をダージュに浴びせる。
そこでダージュは黙り込み、表情が見えない様な位置まで俯き黙る。
やはりな、と言わんばかりに、ネムイたちはニヤリと笑う。
アッシュとライアは互いに目を合わせ、頬に笑みを浮かべながら頷き合う。
勝った。
と、思ったが、そこでダージュが不敵に笑い出した。
「……フフフフ、アハハハハッ」
等々、声を抑えきれず、口から笑い声をあげるダージュ。
それにはアッシュたちの表情も一変する。
「な、何よ! 何がおかしいのよ?」
「ふん、お前たちの言っている事は事実だ。当時はな」
「と、当時、て?」
「言葉通りだ。三日目前、アッシュと交わした契約は紛れもない紛い物。だが、嘘から出た実ともなった。この意味が分かるか?」
「ま、まさか……」
コンコン
「ちょうどいいタイミングで来たな。どうぞ、大統領」
「えっ⁉」
意識が定まらないくらい驚き続けるアッシュたち。
唐突に鳴った扉を叩く音の方向に嫌でも目がいくと、そこから現れたのは、なんとジョーン大統領、本人だった。
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