第十四章 愛と遭い 三話
その日の内に、アッシュから集合を掛け、お昼にネムイたちと使われていない、倉庫で会う。
その時、ネムイたちがアッシュの呼び出しにも驚いたが、人目を避ける場所の指定場所にも、ただ事ではないと察していた。
ネムイたち三人は、倉庫に到着すると、気持ちを引き締め倉庫の分厚い扉を開ける。
すると、アッシュが俯きながら暗い面持ちで待っていた。
「……アッシュ、どうしたんだ一体?」
ライアたちが心配した面持ちで慎重に口にする。
「……悪い、お前たちにどうしても伝えなきゃいけない事があって」
重い空気に乗った方がむしろ楽に思えたアッシュは、身を任せるかのように重々しく口にする。
ネムイたちは互いに顔を見合わせ、アッシュが口にするのを黙って待つ。
数分後、ようやくアッシュが口を開く。
「……こんなの、俺の身勝手で口にするのは百も承知だ。けど、言うしかない。妹が助かるには、この事実を、お前たちに共有する事が条件の一つだから……」
「……本当に何があった?」
カズイもアッシュの態度に心配する。
「……俺……ダージュ・オブ・ゲーヘントの、生贄になる」
「――なっ⁉」
「――えっ⁉」
「――嘘だろ⁉」
振り絞る様に発言するアッシュの言葉に、驚愕するネムイたち。
「お前! 何考えてんだよ! 生贄って……死んで妹を助けたってお前はどうなんだよ⁉ ルイちゃんの手術が上手くいけばいいんだろ? だったら俺様たちが全身全霊をもって協力する。だから、そんな事言うなよ」
最後には慰めるように言いながらアッシュに近付くライア。
しかし、アッシュの言いたい事はまだあった。
「待ってくれライア。多分、アッシュにはまだ言いたい事があるようだ」
「え?」
カズイは察していた。
ライアが言ってる事は、アッシュも理解している。
それでも自分が生贄にならなければいけない程、切迫した状況が今だと、言う事をカズイは見抜いていた。
「ああ。聞いてくれ。これが真実だ……」
アッシュはネムイたちの顔を見る事が出来ないまま、床を見ながら悔しそうに、ダージュとの話や契約の内容をすべて口にした。
聞き終わる頃には、どうしようもない事態だと言う事を、嫌でも理解せざる終えないネムイたち。
「……これがダージュ先生と話した詳細だ」
「……何よそれ……ルイちゃんの脳に、寄生虫……」
「……くそ……」
「……」
誰もが信じたくなかった。
だが、どうしようもない現実。
脳梗塞と同時に寄生虫まで除去しなければいけない手術など、いくら腕が卓越されているネムイたちでもどうにもならなかった。
「……手術、分けるてって事は出来ないの? 先に寄生虫だけ除去してから、その数カ月後に脳梗塞の手術をするとか?」
「それは不可能だ。輸血の在庫が今、殆どない。この前の爆破テロで、臓器だけでなく、血まで使ったからな。おまけにルイちゃんの脳梗塞の症状は早急に済ませなければいけない程、芳しくないのが現状だ。そんな幼い子に二回も休息も殆ど与えないまま、ましてや輸血が殆どできない状況下の中で、できるわけがない」
「てことは、一回の手術で全て終わらせるしかないって事か」
打開策が出てこないネムイたちは焦燥していた。
どうにかできない物か、と。
「それからこんな事言うのは、お門違いかもしれないけど、ダージュ・オブ・ゲーヘントで生贄になった者は、もう二度と蘇る事が出来ないらしい」
「はあっ⁉ なら尚更あんたにやらせるわけにいかないじゃない! さっきもライアが言ってたけど、ルイちゃんが隣に居て欲しい最愛の家族が二度と帰ってこないって、ルイちゃんにどう説明する気⁉ ふざけないで!」
覚悟を決めて口にするアッシュに対し、引火して爆発したみたいに怒号するネムイ。
だがアッシュは何も言い返せない。
ただ、ルイと二度と会えない事を想像するだけで涙が止まらなかった。
「ルイちゃんの手術まであと三日か……」
カズイが現実と今できる最善の策を考えて思わず小声に出すが、これと言った解決策が出てこない。
そのまま沈黙が経つかと、思いきや、ある人物がとんでもない事を口にする。
何故か沈黙に耐え切れなくなったライアが、勢いよく倉庫の出入り口の扉を開ける。
「え? ちょっと? どこいくの?」
ネムイが慌ててライアに声をかける。
「んなもん決まってる。今の俺様たちに出来ない手術なら、できるようになるまで、外科医としてのスキルを上げる事だ。もう、これが、アッシュとルイちゃんが悲しまない最善策なんだよ」
「「……え?」」
勇ましくアッシュたちに振り向きながら口にするライアに素っ頓狂な面持ちになってしまうアッシュたち。
ここまで読んだ読者の皆様方なら察しているかもしれませんが、ライアはかなり原始的な一面もあります。
そんな事はさておき、とんでもない脳筋発言をするライアに、思わず、アッシュが「プフッ」と笑い出してしまう。
それに釣られて、ネムイとカズイもクスクスと笑い出した。
「お、おい! 何だよ。笑う事ねえじゃねえか!」
何か失言でもしたのか? と勘繰りながらも、どこか怒りながらも必死に口を回すライア。
「ハハハハッ。すまない。実に君らしく、これ以上ない解決策だ。俺も協力しよう」
「フフッ。ほんと、ここまでくると、尊敬せざるを得ないわね。私にはない一面。姉妹ってこれくらいがちょうど釣り合うのかも」
「えっ⁉ 聞き間違いじゃないよな。お前、今、俺様の事、お姉ちゃん、て」
「ちょ、ちょっと! 勘違いしないでよ! おまけに言ってないし! べ、別に、そう言う意味で言ったんじゃないからね!」
姉妹揃ってあたふたしている所を、睦まじく見ていたアッシュとカズイ。
「……なあ、カズイ。いいのかな? 俺、すがっちゃって」
「良いんだ。俺だけでなく、彼女たちも心底、君とルイちゃんを救いたいんだ。だから君も、家族だけでなく、友も大切にすればいい。その分、俺たちはその思いを返すさ」
目に涙を浮かべながらも、どこか笑みも含んでいたアッシュの言葉に、カズイは背中を軽く叩きながら、アッシュに寄り添う姿勢を見せた。
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