第十四章 愛と遭い 二話
少し時が経ち、ダージュの拉致、ルイの手術が三日後と重なったある日。
アッシュはダージュの医務室に訪れた。
コン。コン。
「入れ」
「失礼します」
ガチャりとドアを開け、神妙な面持ちでダージュの医務室に入るアッシュ。
「ふん、とうとう来たな」
「……まるで確信でもしている様な口ぶりですね」
ダージュはニヤリと笑うが、アッシュはそんなダージュを睨みつける。
「妹の件だろ」
「やはり知っていたんですね! ルイの脳に、脳梗塞だけでなく、寄生虫が張り付いていた事も⁉」
まさかのとんでもない事実。
なんと、ルイは脳梗塞だけでなく、CT検査やレントゲン写真で写っていたのは、寄生虫だった。
アッシュは切羽詰まった勢いでダージュに食いつく。
「どうだかな。だがこれで明白だ。人間の脳に寄生虫が張り付いていたなど、中々例の無いケース。これを成り上がりの医師であるお前が、脳梗塞と同時に寄生虫を摘出するなど夢物語だ。今回の寄生虫はフォーラネグレリアと言うアメーバの一種。脳を食らいつく害虫。だが奇跡的にも脳に一切の刺激を与えず、蹲ってる状態だ。これが食に走れば、間違いなく貴様の妹は死ぬ。摘出中にアメーバを変に刺激すれば、道具が届かない場所に入り込むように逃げる。そうなれば脳をひっくり返さなければいけない様な展開になる。無論、それもお前には不可能だ。いくら私が鍛え上げたと言っても、な。だからこそ、だろ?」
愉悦に浸る様に口にするダージュ。
最後の意味深な言葉は、アッシュには分かっていた。
その言葉はアッシュの怒りを抑え込み、別の感情が湧きだし始める。
「……ええ。そうです。俺の技術では脳梗塞を治せたとしても、それと同時に寄生虫を摘出するなど土台無理な話です。だからお願いします。おれがダージュ・オブ・ゲーヘントの生贄になる代わりに、妹を、直してやってください」
悔しさと悲しさでいっぱいになる気持ちを吐き出すでもするかのように、ダージュの前で平伏したアッシュ。
それをダージュは悪辣な笑みで見下ろす。
暫くの沈黙が経つ。
「いいだろ。と、言いたいところだが、少し私の周囲で状況が変わってな。蘇らせる人間に問題が生じ、正直、悩んでいる。ダージュ・オブ・ゲーヘントを発動させるかどうかを」
「――えっ⁉」
まるで、揺さぶりでもかけるように、いたずらな大人の悪巧みな笑みを向けるダージュ。
思っていた答えと違う事に一驚するアッシュ。
ダージュがいっているある人間とは、もちろんジョーンの事。
友好関係を築いているからこそ、成立していた話でもある。
しかし、ジョーンが謀略を企てている事を知ったダージュの気持ちは変わりつつあった。
だが、ダージュにはある狙いがあった。
狙いと言うよりも予知を回避するための防衛手段と言ってもいい。
そのためなら、と、アッシュに揺さぶりをかける事になる。
「よし、こうしよう。この話は保留だ。もちろん、貴様の妹の手術には私が執刀医として立ち合う。そのかわり、契約書にサインしてもらうぞ。ジョーン大統領、自ら試行した新たな契約書だ。この禁を破れば、お前とその家族には死んでもらう」
「……はい」
重々しくダージュの申し出を承諾するアッシュ。
もちろん、最後は嘘。
すぐにアッシュの脳裏では、家族の顔や、カズイたちの顔が浮かぶ。
皆、笑顔でその想像する顔は次第に消えていった。
思い出も一緒に。
自分は近い内に死ぬ。
この事は誰にも言えない。
目を閉じ俯き、そう固く自分に誓うアッシュ。
だが、ダージュはその後、とんでもない事を言い出す。
「それともう一つ、この事は、カズイ、ネムイ、ライアに情報共有しろ」
「なんですって⁉」
まさかの言葉に再び驚愕するアッシュ。
いったい、ダージュの狙いとは?
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