第十三章 無縁 四話
暫くして、ダージュは罪に問われた。
ソルの死体解剖の結果、肺の血管を誤って切ったと言う事で、片付けられた。
因みに死体解剖はルチン一人でやった。
ダージュの無実を潔白したいと息巻きながら。
だが結果は無残な物だった。
ダージュは納得がいかず、すぐに裁判所や死体解剖による再審を求めたが、結果は変わらずじまい。
医師免許を剥奪され、遺族や親族に追われる形となってしまう。
ルチンが抗議するかと思いきや、何もせず、ただ時の流れに身を委ねるかのように、ダージュの結果を見届けていただけだった。
その後のダージュは酒に溺れ、半年以上の月日を空過させていた。
半年の中でも生き甲斐や目標を見いだせず、どうしたらいい物か悩み続ける毎日。
そんなある日、ダージュは初心を、ふと思い出す。
「そうだ、私は尽くしたい。尽くして結果を手に入れたいんだ。そのためなら」
眉に力を入れ、生活のためのお金を工面するためにも、這い上がる気概を見せるダージュ。
真っ当な医師は無理でも、闇医者なら、まだ道はある。
ダージュは医師の気持ちを捨てきれず、ただ誰でもいい。誰かに尽くして生き甲斐を感じたい。ダージュの心はその気持ちに囚われてしまう。
マフィアやホームレス、売人の治療に専念し、何とか食い扶持を稼いでいく。
闇医者となって一年。
ダージュは闇の中でも一目置かれるようになった。
当時は手術ミスをする、藪医者以下の畜生として、闇の業界でも嫌味を言われていた。
それでも、下積みを怠らなかったダージュは、最初はお金のないホームレスから尽くして、その中の何人かが、仕事がらみのマフィアや売人、殺し屋などに情報を共有させ、上手く事が運んでいったのだ。
そんなダージュに転機が訪れる。
それは、ソルの死の真相だった。
どれだけ月日が経ってもダージュの中では納得も理解も出来ていない。
闇医者となって売人だけでなく、情報屋との深いつながりも出来た。
そのパイプにすがるかのように、選りすぐりの情報屋として名をはせていた、当時のオセロにアポを取ると、すぐに駄目もとでもソルの死の真相を聞いてみる事に。
すると、オセロはその情報を、五十万ドルで売ってもいいと答えた。
藁にもすがる思いだった。
ダージュは己に有無を言わせる余地などないかのように、即答で頼む、と答える。
二人はその後、ダージュの拠点である、廃墟ビルの地下にある、診療所で落ち合う事に。
見窄らしい所か、壁や床に亀裂が入っていたり、石ころなども転がってた。
いつ崩壊してもおかしくない様な廃墟ビル。
二人は会うなり、オセロの健康診断と称して、取引を開始する。
「いやあ、参ったよ。凄腕だろうが何だろうが、やはり俺も人の子だな」
「それはそうだ。お前も私も闇の住人とはいえ、人間だ。健康に配慮するのは至極当然。しながら始めるぞ」
「OKだ」
自分に呆れるかのように笑うオセロにやれやれと言わんばかりなげんなりした態度でオセロの健康チェックをするダージュ。
先に血液検査から始める。
「で、本当だろうな? ソル医学長の死因を知っていると言うのは?」
「ああ。先に言っておくが、あれは偽装であり、お前は冤罪だ。断言しよう」
まさかの言葉に、採血する手に力が込み上がるダージュ。
鋭い目つきで採血し終えると、アタッシュケースをオセロの目の前の台の上に、ドン、と力強く置く。
そしてアタッシュケースの中を開くと、予想よりはるかに多い紙幣が入っていた。
「ここに約束の五十万ドルだけでなく、内容によっては五倍の値で取引してもいい」
ダージュの覚悟に面と向かって受けて立つオセロ。
先程までの流暢な口ぶりや表情から闇色が浮かぶ。
「……ほう……なるほど。そこまで真実を知りたいんだな? だが良いのか? おそらくあんたを更なる絶望に堕とすことになるかもだぞ」
「……ああ……覚悟は出来てる」
睨み合う両者。
まるで軋轢の不仲の人間同士、腹の内を吐き出したくてたまらず、飢えている様な瞳。
「……分かった。次は尿検査か?」
「あ、おい!」
オセロはケロリと表情を一変させ、愉快な面持ちで便所に向かう。
慌てて止めに入ろうとするダージュだったが、オセロは「あんたも来い。少し打ち解けあうためにも連れションでもしようじゃないか」と、愉快なおじさんな立ち振る舞いで、強引にダージュをトイレに連れて行く。
ダージュは渋々、付いていき、何でこいつと連れションせなにゃならんのだ、と納得のいかない面持ちでトイレに向かう。
二人並んで便器に用を足していると、オセロが口笛を吹き始めた。
軽快なオセロを警戒するダージュ。
すると、ふいにオセロが語りだした。
「抗血栓薬を知ってるか?」
「は? いきなり何だ?」
「いいから答えな」
いきなりソルの死とは無関係と思える薬の名前に一驚するダージュ。
それでも答えれるのか、見たいなニヤニヤした面持ちで、揶揄ってくるオセロ。
致し方ないと思い、ダージュは呆れるかのように大きな溜息を吐き出す。
「……それくらい医学生でも知ってる。血管内に血栓ができるのを防ぎ、血液をサラサラにする保つ薬だ。だが市販薬や医療用医薬品ではないため、精々、手術の時の心臓や血管にある血の塊を和らぎ排出させる……ま、まさか⁉」
「察しが良いなあんた、そのまさかだ」
淡々と常識でも語り、それに嫌気が差した頃だった。
ダージュは真実を察してしまう。
その背景には、ルチンが居た。
ダージュはソルのリンパを切除する時、ルチンに筋弛緩味を打つよう指示を出した。
その直後だった、ソルが異常なまでの出血をしたのは。
「死体解剖の結果、ソルの体内に、異常なまでの抗血栓薬が検出された。それを投与したのがルチン・マーコッド。そしてルチンは死の真相を隠蔽しようと、自らソルの死体解剖を買って出て、一人で全て処理した。あんたに罪を着せて、自分がのし上がろうとしたんだ。当時のあんたは次期医学長になる器でもあり、それは現実になりかけていた。だが、ルチンはそんなあんたの傍に居て、自分が嫌になったんだろう。このままでは人に仕えてばかりなろくな人生にならないと。そこでルチンは必死になって勉学した。ちやほやされるあんたが気に食わない彼女は、実った実績を手に入れるのと同時期に、目障りなあんたを闇に葬ろうと。これが真実だ」
「いや! まて! いくら何でも露骨すぎる! 彼女が俺を嫌悪していた⁉ そんな素振りは見た事がないぞ!」
便器から尿がはみ出そうが手に引っ掛けようが、お構いなしにオセロの胸ぐらを掴み、怒号のような言葉を履き続ける。
だが、オセロは気にも留めてない。
それ所か、ニヤつくかのように、まるで喜んでいた。
気でも狂ったか?
それはダージュも同じかもしれない。
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