第十三章 無縁 二話
その後、ダージュは医師を目指そうとした。
特にお金に困っていなかったが、祖父母の負担を和らげるためにもと思い、バイトなどしてお金を貯めていた。
だが、そのお金で入学金などの諸々の手続きをすませた後に事件は起こる。
ダージュの入学を不正に阻止しようとした人物がいた。
その人物は、ソル・エボンマと言う医学長。誰よりも夢を持つ若いダージュが気に食わない、と言う、何とも言えない軽率で身勝手な理由だった。
ダージュはソルに直談判しに行って問い詰めようとしたが、逆に取引を持ち込まれた。
「私に尽くせ。そうすれば入学させてやるし基準値の評価を取れば医師にもしてやる。正し、私の命令は絶対だ。安心しろ。私に忠誠を示し続けていれば、悪い思いはさせない」
このように悪辣な笑みでダージュを我が物にしようとした。
ソルは、陰で気に入らない奴を手籠めにし、自分の手のひらで転がしておくのが趣味だと言う噂が流れていた。
ダージュは致し方なく、その条件を呑む。
ダージュには医師になりたいと言う強い願望があった。
当時のダージュは、人に優しくし、相手に尽くしたいと言うタイプの人間だった。
なので、ダージュに取って、この医学長の申し出は苦ではなかった。
それどころか、医師となり、ソルの下で働いていると、確かに良い思いが出来た。
出世もスムーズに事が進み、良い女も抱け、良質な物を持てた。
誰よりも優遇され、何時しかダージュの中で悪い心が肥大していく。
尽くすと言う意味を履き違えていた事に、ダージュは気付きもせず、月日が経つにつれ、ますます狂気の沙汰の価値観にまで陥っていた。
月日が経ち、ダージュが二十七歳の頃。
ダージュにも後輩が出来た。
その後輩の内の一人の女医師。
名はルチン・マーコッド。
ルチンは出来じたいは水準よりやや低く、同僚や先輩たちからは見下されていた。
だが、明るく、優しく、ダージュは昔の自分の面影を感じ取り、自然と面倒を見るようになった。
ルチンは、自分を気にかけてくれている事に気付き、ダージュを信頼し始める。
親しくになるにつれ、ダージュの心の中で変化が起きた。
裏金や贔屓で優遇される事に、少しづつ抵抗を感じ、後ろめたさも感じるようになる。
健気で純粋で明るいルチンが影響を与え、徐々に医師になりたかった初心が強く浮き彫りになっていく。
更に一年後、ソルは肺ガンを患ってしまう。
年が七十六歳と言う事もあり、病気に罹りやすい年齢だった。
ダージュは医師としての腕もさることながら、ソルの面倒見が評価され、人望もあり、ソルにも何時しか実力で買われていた。
その頃にはルチンも医師として真価を発揮する。
芽生え始めた実力が、手術や受け持ちの患者の薬の調合の仕方も的確になり、評価はうなぎのぼり。
ソルが医務室にダージュを呼び出し、自分を治療して欲しいと懇願する。
ダージュに取っても、ソルは生きていてもらわなければ困っていたのも事実。
裏でソルに評価に応じて臨時収入など受けろり、昇給や昇格も自由自在だった。
だが、ルチンの笑顔が浮かぶ。
その笑顔を想像するだけで、ソルがこのまま生きてて本当に医療のためになるのか?
正義と悪の狭間で悩み続けるダージュ。
すると、ルチンが自分もソルの手術に立ち会い、ダージュの助手をしたいと申し出てくれた。
直で聞いたダージュは迷い、暫く沈黙の時が経つ。
ダージュは打ち明けた。
詫び入れるかのように、ルチンに裏金や不正の優遇をされている事を。
それを聞いたルチンは穏やかな表情で「私は貴方を信頼も信用もしています。これは絶対に揺るぎません。なのでこれから変えていきましょう。ソル医学長を治したら正面から堂々と、今までありがとうございました。これからは医師としての本来の道を歩みます、と言えばいいんです」そう言う。
両手を握りしめながら、まっすぐな瞳を向け、心籠った温かい言の葉。
それはダージュの心を変えるには十分だった。
ダージュはソルの執刀医になる事を決め、ソルの手術が始まる。
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