第十二章 命と引き換えに 五話
暫くの沈黙が経つ。
愛を向けてくるマチルダに、少し照れ臭かったのか、ダージュは咳払いする。
すると、ダージュは気を取り直し、改めて、話を戻そうとする、
「お前が味方になったとしても、さっきも言ったが、大国を二人で相手など、正気の沙汰ではない」
現実に目を向けるが、やはり、現状は芳しくない。
むしろ絶望的な状況とも言っていいだろ。
だが、マチルダは、それを鼻で笑う。
「私こそ、さっきも言ったけど、ジョーンとの取引関係は継続中よ。この意味が分かる?」
自信たっぷりに口にして笑みを向けてくるマチルダに、面を食らったかのような表情になるダージュ。
今の言葉だけで、ある事を察しただけでなく、女であるマチルダが『ジョーンとの取引関係が継続中、この意味が分かるか?』などと言ってしまえば、単純明快。マチルダは女でジョーンは男、これ以上の答えはない。
「フフフフッ、まさか、死刑が決まったような男を愛しただけでなく、その男のめに、アメリカと言う大国を敵に回そうとするとは。フフフフッ、アッハハハハハッ! 分かった、認めよう。マチルダ、お前は底知れない大馬鹿であり、愛の化身だ。自己愛に執着するジョーンがこの場に居たら、間違いなく荒唐無稽と言いながら発狂していただろうな。」
ダージュは腹を抱えて爆笑し、マチルダを称賛した。
マチルダは少し不貞腐れる様にして「それだけ? 私の愛を一方的に受け取って置いて、他に言う事はないの?」と口にする。
すると、ダージュは満足気に立ち上がると、「ついてこい。お前の心臓に取り付いている爆弾を除去する。それから、その雑な縫合の後も。綺麗に処置しといてやる」と口にし、マチルダに背中を向けた。
マチルダに取っては、その言葉だけで十分だった。
微笑ましい様な表情で、ダージュの後についていく。
ドアを開け、二人は斜の列で通路を歩き、手術室に向かう。
そこで、マチルダが、ずっとダージュに聞きたかったことが、ふと脳裏に浮かぶ。
「ねえ。貴方には前から聞きたい事があったのだけど?」
「何でも聞け」
答えてくれるか半信半疑だったのだが、上機嫌なダージュは即答で口にする。
それが嬉しかったのか、遠慮せず、マチルダはある事を聞いてみる事に。
「ずっと不可解だったのよ。貴方がジョーンに迎合し、媚を売ってまで、何が欲しかったの? 普通に考えれば、ジョーンを死者蘇生のために、自分の手を汚し続けること自体、理解できないし、誰も納得しない。貴方の狙いは何なの?」
前から気にしていたと、口にはしていたマチルダだが、ダージュと結ばれた事で、案外どうでもいい案件なのか、特に気にしない程度で聞いてみた。
だが、それはダージュに取っても、今となってはどうでもいい事だった。
少し、憂鬱な表情になるダージュ。
少しの間、足音だけが廊下で鳴る。
「どうと言う理由はない。私の生まれも育ちもアメリカだ。その国のトップに肩入れし、尽くしていく事で、私は……わた……し……は」
急に歯切れが悪くなり、ダージュの表情には影が映り始める。
自分自身、今まで何のためにやってきたのか?
その活力源は何だったのか?
ダージュ自身、それは確かにあった。
理由があり、尽くしてきた。
重い蓋で閉ざされていた、闇の扉。
これはダージュでさえも、コントロールできない。
自分に枷が出来ていた事に目を背け続けてきた結果が今である。
そのダージュの心境は、先程までの機嫌の良さが、嘘に塗り替わったかのように表情に出ていた。
足取りも少しづつ重くなっていく。
それを、後ろで見ていたマチルダには、何となく分かっていた。
それは、ダージュの幼少期に関わっていた事。
先程も、マチルダは言っていた。
ダージュの生き様に惚れた、と。
マチルダは無言でダージュの横に付き、腕を支えて「大丈夫、私が付いてるわ。この先何があろうと、私は貴方の味方であり、唯一無二の伴侶よ」と憂慮でもしながら、心配した面持ちで、ダージュを支える。
そして、ダージュも分かっていた。もう、マチルダを敵に回せない、答えが……。
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