第十二章 命と引き換えに 三話
仕事も終わり、アッシュの妹、ルイの手術まで五日後。
ダージュは会議室で一仕事終え、ある人物と秘密裏に面会する予定だった。
不意にドアがノックされる。
「入れ」
ただ一言、ダージュが淡白にそう言うと、扉がゆっくりと開いていく。
「あら、随分、機嫌がいいわね。いつもなら声に威圧感があるのに」
「ふん。良くそんなところを観察していたな」
会議室に入ってきたのは、なんと、ダージュが雇った、元殺し屋のマチルダだった。
「なんだ? 私と合って直に話したい内容とは? くだらない話ならお前のその粗末な一物に更に汚名を刻むぞ」
マチルダと会って少し不機嫌になるダージュ。
だがマチルダは不敵に笑う。
「別に世間話に来たわけじゃないわ。貴方に取って重要な話があるのよ」
「重要な話だと?」
優美に語るマチルダに眉を顰めるダージュ。
すると、マチルダは、椅子にもたれかかって座っているダージュの背後にゆっくりと向かう。
そして、蜜を与えるかのような淫らな笑みになる。
「ねえダージュ。私と新しい取引をしない?」
艶笑に背後に立つマチルダに何を企んでるのか? その裏を探ろうとするダージュ。
「ふん。貴様は私の護衛兼、臓器が無傷な死体提供。それ以上の取引か? 終に身売りでもし始めるか?」
鼻で笑い、半ば冗談で言うダージュの言葉に一切の動揺がないマチルダ。
「当たらずと雖も遠からずかしら。実わね。文字通りの意味で、私を貴方のパートナーにして欲しいの」
厭らしくダージュの肩に腕を回し、膝の上に腰を落とすマチルダ。
「……何の冗談だ? そもそもお前は私と敵対していた印象があったが?」
無愛想な顔をマチルダに向けるダージュ。
「最近まではね。でも気が変わったの。貴方の生き様を見せられて、私は改心したわ」
「ふん、くだらん。どうせ、ダージュ・オブ・ゲーヘントの魅力に惑わされてお前も永遠の命が欲しいのだろ?」
とりつく暇もないくらい、ダージュはマチルダに心の籠っていない言葉を返す。
「そう言うと思ったわ。だから貴方に二つの有益な情報を教えてあげる」
やはりと言うべきか、マチルダはそう思われても仕方ないと自覚していたため、とあるカードを切り出す。
「ほう。それは興味深いな。本当の話ならな」
嫌味で言うダージュだが、マチルダは頬一つ表情を崩さない。
「まず一つ。貴方は五日後、殺されるわ」
「……ふん、何を言うかと思えば、今更だな。日時など関係なく、年がら年中、私の命を奪おうとする輩は五万といる。それが一体どう有益な話に繋がる?」
「聞いて驚かないでね。貴方の命を狙おうとしてるのは、ジョーンよ」
「ん? 大統領が?」
マチルダから少し意外な人物の名が挙げられ、眉間に皺を寄せるダージュ。
そして少し沈思黙考するダージュ。
「……大統領との関係は友好なはずだ。そもそも何故、貴様がそんな事を知っている? お前と大統領に接点があるとでも?」
その探る様な問いにもマチルダは一切、驚きを見せない。
「ええ。そもそも、私は二重契約していたの。貴方との契約と、そしてもう一人、それがジョーンよ。ジョーンとの契約内容は、貴方を貶め、ダージュ・オブ・ゲーヘントの存在を独占しようと企んでいた。この前の爆破テロもそう。貴方のリソースを削り、医者としての信用を削るため。けど、貴方がジョーンと友好な関係をしていたため、半端なクズのジョーンは、これ以上、貴方を貶める事を、どこか後ろめたく思って、今まで企てていた計画の半数を取り消した。でもそれもそこまで。本物の悪となったジョーンは強硬手段を取りに来るわ。貴方を逮捕し、公にされていない施設に幽閉し、脳に直接触れ、自白剤などの多量の薬で、ダージュ・オブ・ゲーヘントの製造方法を聞き出し、お役御免となったら貴方を殺す。それが今、ジョーンのシナリオよ」
「……」
淡々と語るマチルダの真相に、言葉が出てこないダージュ。
マチルダはともかく、ジョーンとは友好な関係を望んでいたのはダージュに取っては事実である。
さすがのダージュでもショックを隠し切れず、両手で顔を覆い、俯き、マチルダにも聞き取れるくらいの深呼吸をする。
そんなダージュの頭を慈しむように優しくなでるマチルダ。
その表情に、黒い影は無かった。
これはマチルダに取って純粋の愛だと言う事を、後にダージュは知る事になる。
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