第十一章 ダージュ・オブ・ゲーヘント 五話
徐々に近づいてきた機動隊員は銃口をアッシュたちに向け、ピタリと止まる。
「安心しろ。今この場でお前たちの誰かを生贄にするとは考えてない。少し猶予をやろう。半月後、お前たちの誰かを、生贄し、ダージュ・オブ・ゲーヘントを遂行する予定だ。お前らが望めばな」
「言う事を聞かなければどうせ殺すんでしょ? でも本当にそれでいの? もしかしたら私たち全員、自殺するかもしれないでしょ?」
「「えっ⁉」」
ダージュに少しでも張り合おうと、ネムイは眉間に皺を寄せながらとんでもない事を口にする。
それを聞いたアッシュたちは目を引ん剝くぐらい驚愕する。
更にネムイの話は続く。
「さっきの話だと、敢行を乗り越えたマウスたちの内の一匹が生贄にされた。つまり人間で言うと、超人の域に達した者たちでなければ、生贄にする意味がない。そんな最後の試練を乗り越えた私たちがこの場で自殺でもしたら、それこそ、あんたの計画は白紙に近い状態になるわよ」
ネムイが圧をかけて口にしていくが、ダージュは意を返さない様な涼しい表情をしていた。
「さっきも言ったはずだ。お前たちをこの場で殺す様なもったいない事はしないと。おまけにお前たちの意志も尊重し敬意を払う」
「なら何故、銃火器を持った人間をここに寄こすんですか? 結局、脅すつもりなんですよね」
ライアが怪訝な面持ちで言葉を返す。
「そいつらが持っているのは麻酔銃だ。お前たちがこの場で安易な自殺など、下手な真似をしないようにな。それとな、脅迫しなくても自ずとお前らの誰かが私の所に来る。『自分を生贄にしてくれ』と」
「――なにっ!」
淡々と口にするダージュの驚愕の言葉に、驚きを隠せないカズイ。
カズイだけでなく、意味不明に近い言葉、と受け止めてしまうアッシュたち。
この言葉の意味は直ぐに知る事になる。
「で、どうする? 生贄になるのか? ならないのか?」
嫌な笑みでアッシュたちに悪意を向けてくるダージュ。
ネムイたちは動揺しながらも、互いに顔を見合い、どう答えるべきなのか考えて沈黙してしまう。
先程は、誰かを犠牲にすれば他人が助かる、と言うのは、あまりにも馬鹿々々しく思え、思わず怒鳴りつけたが、よく考えてみると、自分一人が犠牲になって一年以内に亡くなった人たちが全員、生き返る。
裏を返せば魅力的な話にも思える。
しかし、それは自己犠牲。
自分一人の命を蔑ろにしてしまえば、それは人として絶対やってはいけない事。
だが、この時のアッシュたちは思考が麻痺していた。
これまで常識はずれの非日常の生活に身を置き、人として正しい判断ができにくくなっていた。
それどころか、この場でダージュの申し出を拒めば、今まで死んだ人間よりも、自分の命を優先して、自己愛の強い身勝手な人間ではないか? と自分自身に言い聞かせようとしてしまう程、追い込まれていた。
しばらくの沈黙が流れる。
「……少し、考えさせて……」
「良いだろう。だが猶予は後、半月。それまで考えておけ」
ネムイは消沈した様子で言葉を口にする。
ダージュは狙い通りの様な勝ち誇った表情になる。
先程、ダージュが言っていた、自ずとお前らの誰かが、自分を生贄にしてくれと申し出る。
もしかしたら、ダージュはアッシュたちの良心の呵責を狙った言葉だったかもしれない。
しかし、ダージュは既に一人の人間にターゲットを絞っていた。
「今回はここまでだ。帰っていいぞ。それと言うまでも無いが、この事は他言無用だ。もし、外部の人間にこの事を露呈すれば、私はお前たち四人が打ってつけの人材の生贄になると世間に公表する。そうすれば、世界は、自分の身内や恋人、友人が蘇るなら、赤の他人であるお前たちの命など気にも留めず、力ずくで生贄にしろ、と強行手段に出るはずだ。そうなれば、お前たちに逃げ場は無くなる。選択肢は自ずと限られる、と言うわけだ。分かったか?」
「……はい」
どこまでも人の感情を逆手に取るダージュ。
いつもの非道性だからこそ、こんな事では驚かないアッシュたち。
振り絞る様な声。
とんでもない藪蛇に噛まれた事に、後悔してしまった。
だが、この後、一人の医師が、藁にも縋る思いで。ダージュに自分を生贄にしてくれと、懇願するなど、この時のアッシュたちは夢にも思わなかっただろう。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
今回で第十一章は終わりです。
次回からはダージュの話が多いです。
是非、次章からもご一読ください。
よろしくお願いします。




