3
これは中学一年の夏。
これは僕にとって恋心の原点。大切な思い出の一つだ。
ある日、僕は学校の保健室にあるベッドでぼけーっと時間を潰していた。
教室の空気に馴染めない。
進学してからこれっぽっちも学校が楽しくない。
「はあぁ・・・・・・」
小学校からの友達は教室が離れ、僕は知らない校区からやってきた知らない人達と囲まれている。面白くもないし、息苦しい。だからといって新しく友達を作る勇気もなくて、学校に通うのもしんどくなっていたときだった。
「あー!」
女の人の声。
掛け布団からチラッと視線を向けると、一人の女子生徒がベッドのカーテンを捲って立っていた。
「ちょっと先生、私のベッドに先客がいるんだけどー」
「赤坂さん。保健室のベッドはあなたのベッドじゃないわよ」
「ちぇー」
不服そうに言って、僕に視線を向けると、
「君」
「・・・・・・」
「狸寝入りでしょ」
ぎくっとする。けど、それでも声は出せない。
「少女? いや、少年? まあ、どっちでもいいや。そこは私の特等席なんだよね。それを奪うんだからそれなりの理由があるんだよね」
「・・・・・・」
理由なんてない。案内されたベッドがこの場所だっただけだ。
「その場所を取ったんだからさ、その代わりに」
代わりに? 僕は何を要求されてるんだ。
「話し相手になってよ、私の」
「・・・・・・え?」
思わず声が出てしまった。頭まで被った布団から顔を半分出す。
「仮病なんでしょ、君も」
確信を持ったように言う声。近くにいるはずの先生は何も言わない。僕は回答を求められている。少しだけ考えて、
「仮病じゃ、ないですけど・・・・・・」
「ほら、返事できる。やっぱり仮病じゃん」
「ええっ?」
「本当は元気なんでしょ」
「い、いや、別に、元気なんかじゃ」
「分かるよ。教室にいるのが嫌なんでしょ。逃げてきたんでしょ」
そう言うわけじゃない。
逃げてきたわけじゃない。
僕は、ただ、ただ、そこにいても意味がないって思っただけで。
「僕は」
「私と話そうよ。少し元気になるかもよ?」
差し伸べられた手。僕に向けられた微笑み。
美しいと思った。ドキッとして、何か大切なものを鷲掴みされたみたいで。
「え、と」
僕はそれにおそるおそる口を開く。
運命。
なんて言葉が頭に過った。
この人と会うために僕は今日保健室に来て、先生からこのベッドを借りた。
そんなことあり得ないのにそんな気がしてしまう。
これが僕と先輩との邂逅だった。




