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江戸の華  作者: 蒼水瀬
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青く光る飛脚二

「「江戸の華は、散らせてなるものか……いざ、勝負!!」」


二人の声が重なった瞬間、水蒸気の霧を切り裂いて、サイバー刺客たちが一斉に襲いかかってきた。青白いレーザー日本刀の刃が、十重二十重(とえはたえ)に某へと迫る。


「オラァッ、まずは俺からだ!」


某(それがし)が地を蹴り、前方の敵へと突っ込んでいく。その【熱き動】の踏み込みは、システムの予測を完全に超越していた。


バッと翻された紅蓮の扇子が、襲い来るレーザー刃を真っ向から受け止める。生身のパッションが乗った扇子から激しい火花が散り、その圧倒的な熱量が刺客の装甲を瞬時に焼き焦がした。

某が流れるように扇子を振り抜くと、突風のような衝撃波が巻き起こり、前衛の三人を見事になぎ倒す。


「某殿、背後から二名!」


サイは一歩も動かない。某の背中の温もりを感じながら、周囲の空間データをコンマ数秒で網羅する。

某の死角、真っ白な霧を突き抜けて刃を振り下ろそうとした刺客の懐へ、サイは草履を鳴らして滑り込んだ。


――カツン。


「【静かなる一閃】――そこです」


刀は抜かない。ただ、親指でわずかに押し開いた鞘の隙間から、溜まった電脳の全エネルギーを一気に解き放つ。


ドンッ!!!


目に見えぬ衝撃の波紋が雨夜を走り、某を狙っていた刺客たちの身体をまとめて路地裏の壁へと叩きつけた。システムが強制シャットダウンされ、火花を散らして崩れ落ちる敵の装甲。


「流石じゃねえか、サイ!」


「某殿の踏み込みがあってこそですよ。……ですが、まだ残りが来ます!」


「へっ、上等だ。まとめてかかってきやがれ!」


背中を合わせたまま、某とサイはニヤリと不敵に笑い合う。

紅蓮の炎と電脳の青い光が夜の雨を蒸発させながら、二人の最強のコンビネーションはさらに加速していく――。


某の紅蓮の扇子と、サイの【静かなる一閃】が、路地裏の闇を完全に圧倒した。


火花を散らして機能停止していく刺客たちの中、最後の一人が恐怖に震え、レーザー日本刀を落としてよろよろと後ろへ飛び退いた。


「おい、サイ。あいつ、腰が抜けてやがるぜ」


某が扇子を軽く回しながら、不敵に笑う。


「泳がせておきましょう、某殿。これ以上ここで時間を食うのはタイパが悪すぎます。越後屋の親玉に、あっしたちの顔をよーく報告してもらいましょう」


「ハッ、違えねえ。おい、おチビちゃん、しっかり捕まってな!」


某は路地の隅で震えていた女の子をひょいと抱き上げると、その広い胸の中にしっかりと守った。


「行くぞ、サイ! 夜風を追い抜くぜ!」


「御意。追従します!」


某たちは、逃げ出す刺客には目もくれず、雨の日本橋を蹴って走り出した。

背後から迫るお上の追跡シグナル、街頭カメラの監視。すべてサイのハッキングで先回りして遮断する。誰もが見て見ぬふりをする冷めきったネオン街を、サイたちは飛脚となって、颯爽と吹き抜けていった。


土砂降りの雨が、いつしか心地よい夜風へと変わっていく。


某の腕の中で、女の子がじわりと温かくなるデータ管を握りしめながら、小さな声で呟いた。


「おじちゃんたち……あったかいね」


「へっ、あたりめえよ。俺たちは天下御免の遊び人と、世界一お節介な電脳(からくり)だからな。目黒の長屋まで、一瞬で送り届けてやるよ」


濡れた前髪を夜風に揺らしながら、某は朝焼けの迫る街道を真っ直ぐに突き進む――。


夜風を追い抜き、某たちはついに目的地である目黒の古い長屋へと滑り込んだ。


薄暗い部屋の奥、息を荒くして横たわる母親の元へ、某の腕から降りた女の子が一直線に駆け寄る。

某の手から手渡された、怪しく青く光る特効薬のデータ管。それが母親の首筋にあるポートへ差し込まれた瞬間、冷たい電子の光が体内へと吸い込まれ、母親の顔にじわりと温かい、人間らしい血色が戻っていった。


「あぁ……よかった……っ、母ちゃん……!」


母親の細い手を握りしめ、ボロボロの袖で涙を拭う女の子。

某はそれを見て満足そうに鼻を鳴らし、懐からサイコロを一つ取り出して指先で弄んだ。


「へっ、一件落着だな。おいサイ、夜が明けちまうぞ」


長屋の外へ一歩踏み出すと、しとしとと降っていた電子の雨はいつの間にか止んでいた。

東の空からゆっくりと朝焼けの光が差し込み、ネオンの煌めく電脳江戸の街並みを、美しく静かな黄金色へと染め始めていた。


「某殿、今回の件ですが……。越後屋の追手から女の子を匿い、薬をハッキングして奪い、目黒までの移動電力を計算すると、完全にあっしたちの今月の予算は底をつきました。お上のスコアも大打撃です。まさに宵越しの銭は持たぬを地で行く大赤字ですよ」


サイは被った笠を直しながら、わざとらしく呆れたように告げる。


「ハハ! いいじゃねえかサイ! 銭だのスコアだの、そんなもんハナから持ってねえよ。また博打で稼げばいいのさ。それよりよぉ、見てみろよ」


某が顎で指差した先。

長屋の古い窓から、女の子が満面の笑顔で、私たちに向かってちいさく、ちいさく手を振っていた。


「あんな綺麗な笑顔が見られたんだ。今夜の夜風は、最高に美味い酒の肴になるぜ?」


「……やれやれ。これだから、あなたとの道中はあっしの計算式がすべて狂うのです」


サイは電子眼の光を優しく細め、某の少し先を歩き出す。

タイパや効率に冷めきった街の中で、太陽の光を真っ直ぐに浴びながら歩く、天下御免の遊び人と、たった一人の電脳用心棒。


「某」と「サイ」、二人の影法師が、朝の江戸の街に長く、温かく伸びていた。


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