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-V.B.L” Virtual Basketball League “ - 『150cmの少女(バグ)が放つ一投は、国家の闇をぶち抜く。――仮想バスケで世界を狂わせる『ノイズ』になれ!』  作者: 蒼井 理人
Layer08:システムvsノイズ

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32/52

Node8.3:最後の乱数(ファイナル・ノイズ)

――コア部到達。アリーナ裏の控室。モニターには、無数のラインが奔流のように流れ始めた。その光景は、技術的なログというよりも、生命活動の計測記録に近い。

「……これは、ゲームのログじゃない!」

大樹の声が震えた。

「国民の購買履歴、投票傾向、生活パターン……全てリアルタイムで記録されている!」

イーグルの瞳が、ログを追いかける。

「そして、それに対してAIが判断を下し、必要に応じて『変更指示』が送られている!」

「つまり、アル=ナジール国民の『意思』は、国によって監視管理され決定されていると言うことの証拠だ。やはりこの国のシステムは、巨大な感情の制御装置だ」

イーグルが呟く。


Xの背筋に冷たいものが走る。これを止めなければ、アル=ナジールの“自由”は、永遠に檻の中だ。

「緊急停止コードを流す。今すぐだ!」


――地下深層:―HARMONIA―・コントロールセンター

「……異常事態です!第7階層のファイアウォールが突破されました!」

制御室に警報が鳴り響く。情報局長官ハキムは、モニターに映し出された侵入経路を睨みつけた。

「馬鹿な……外部からではなく、アリーナ内のローカルネットワークからの攻撃だと?」

「はい、侵入者はコート上のパケットを『踏み台』にしています。NOVAたちの脳波データがシステムに吸い上げられる際の、わずかな逆流を利用しているようです」

ハキムの顔が屈辱に歪む。

「通信を遮断しろ。治安部隊は、 アリーナ裏の控室 へ向え!物理的にも排除しろ。……そしてアミールに伝えろ。……『意識への介入は、こちらから直接行う。お前たちは、即座にNOVAを精神的に破壊し、試合を終わらせろ』とな」


――コートでは、NOVA達のゾーンも限界に近づいていた。アバターの輪郭が時折揺らぎ、YUTAの瞳は血管が浮き出るほど充血している。

「あと少し……!システムを振り切れ!」

YUTAの叫びに応えるように、NOVAがチェンジオブペースで一気に加速。ギャロップステップでディフェンスの間を抜き、空中でボールを背中に隠してダブルクラッチ――

沈めた。

スコアは再び同点。だが彼女の呼吸は荒く、意識が飛びそうになる。ゾーンは、もはや彼女の意志を超えて、システムと格闘するノイズ発生装置と化していた。


――控室。

「パケットの流れを変える!強制的にシャットダウンコードをルーティングするぞ!」

Xがキーボードを叩き、ルーティングを強制書き換え。しかし、コアシステムは即座に反応した。


[access_port=CLOSE][threat_level=CRITICAL]


トンネルが遮断される。

「クソ……追い出された。感づかれたか?」

Xが悔しそうに歯ぎしりする。手のひらがキーボードの枠を叩く。

「まだ終わりじゃない」

イーグルが冷静に言い、再び端末を操作。

「向こうがNOVAのゾーンを吸収しようとしている限り、通信は完全に遮断できない。コートの同期パケットを利用する。NOVAたちが動けば、もう一度穴が開くはずだ。俺たちはその隙間を突く」


――コート:臨界点の四人

コート上の空気は、もはや酸素ではなく、高電圧のプラズマに満たされているようだった。NOVA、QUEEN、YUTA、そしてHare Show。四人のゾーンが共振し、アリーナのホログラムは激しいバグを起こして、美しい砂漠の風景と「冷酷な管理データ」が交互に点滅している。


Hare Showが苦し紛れに吠えた。

「俺たちは特撮ヒーローじゃない!カラータイマーは鳴ってるけど、まだまだいける!」

NOVA、QUEEN、YUTAが静かにうなずき、次のポゼッションで全員の集中が一気に研ぎ澄まされる。ゾーン、増幅。三人の動きが同期し、まるで一つの生命体のようにボールが回る。

その中心で、Hare Showが弾丸のようにペイントエリアへ切り込んだ。トップスピードのままパスを受け取るとった刹那、彼の足元で「法則の書き換え」が起きる。

ボールを保持した瞬間に着地した左足――ルール上、歩数に含まれない『0歩目ゼロステップ』。

アル=ナジール守備陣のAIスキャナーが、Hare Showの異常な歩数を検知してアラートを吐き出す。

[Step count: 4 steps? Violation?]

しかし、システムはその『0歩目』の法的な正当性を否定しきれない。ボールをキャッチしてからの最初の一歩を極限まで引き延ばし、視覚的には「3歩」歩いているように見える不自然な加速。

予測アルゴリズムは「停止」と「移動」の定義の狭間で処理落ちを起こし、ディフェンダーたちのニューラル・リンクに致命的なラグが生じる。


「計算どおりにいかないのが、バスケの面白さってやつだろ!」

Hare Showは、法的な『バグ』を突いたその変則的なリズムで、硬直した敵陣のど真ん中を弾丸のごとく裂いてみせた。

その攪乱が、アル=ナジールの完璧な布陣に亀裂を生む。


NOVAはジャブステップで相手の体重を揺さぶり、シザーステップからQUEENへ高速パス。QUEENがフェイクしてインサイドに切り込み、スクープショットを狙う――が、アル=ナジールのAIは完璧に予測し、ブロックショットが飛んでくる。

直前でQUEENが空中でボールをNOVAに落とし、NOVAがフローターで沈めた。

この瞬時の判断こそ、AIには予測できない人間の―「遊び」―だ。


――「……きた!」

イーグルの目が輝く。彼の端末に、わずかなエラーが検知された。

「ポート再開した!」

[session=RE-ESTABLISHED][firewall=BYPASSED]

再びコアへのアクセスが始まる。


――だが“HARMONIA”も対抗策を発動する。システムはNOVAのゾーンの動きを学習し、その予測に基づいたエラーパケットを逆流させる。

[zone.pattern=OVERRIDE]


アル=ナジールの英雄・アミール。彼の瞳には、もはや感情のカケラもなかった。―HARMONIA―からの強制指令オーバーライドにより、彼のニューラル・リンクは「出力を120%」まで引き上げられていた。

「ノイズは、排除する……」

アミールの声は、人間のものではなく、合成音声のように平坦だった。彼のディフェンスは、NOVAが次に踏み出す一歩の数ミリ先を完璧に封じる。

しかし、その完璧すぎるシンクロが、逆にシステムの「脆さ」を露呈させ始めていた。


NOVAの思考が侵食される。コートのラインが崩れ、目の前のプレイヤーがデータの影のように分裂して見えた。強烈な頭痛が、彼女の意識を支配しようとする。

「負けない……!」

NOVAは歯を食いしばる。ドリブルが加速する。フロントチェンジ、シャムゴッド、インサイドアウト。自分の限界を超えたその動きが、システムの同期パケットを狂わせる―「最後の乱数」―となる。


――イーグルがその隙にファイアウォールを突破、コア部に侵入。

「……おい、大樹。大丈夫か?そろそろ軍の奴らが、押し入ってくる頃だぞ!」

イーグル・Jがキーボードを叩く手は止めず、背後のドアを一瞥した。

「……わかってる。だが、奴らがここに辿り着くには、もう少し時間がかるはずだ。あと少しで―HARMONIA―の『真実』がすべてダウンロードできる。ここで手を離したら、彼女たちの戦いも、この国の自由もゴミ箱行きだ!」


>>>DATA_EXTRACTING:68%...72%...

>>>[WARNING]:SECURITY_TEAM_APPROACHING


◇ ◇ ◇


――アリーナ裏:虚空への強襲アリーナの裏通路、鉄靴の響きが轟音となって迫っていた。アル=ナジールの治安維持部隊が、自動小銃の銃口を向け、ターゲットの控室を包囲する。

突入ブリーチ!」

重厚な防音ドアが爆薬によって吹き飛ばされた。

閃光弾の残光の中、隊員たちが次々と室内に飛び込む。が、しかし……


彼らが目にしたのは、激しいタイピングを続ける二人の男――ではなく、静寂に包まれた無人の空間だった。そこには使い古されたロッカーと、誰のものともしれないベンチシートが並んでいるだけだった。

ただ、部屋の隅、清掃用具の陰に隠されるように置かれた一台の小型端末PCが、不気味に青いLEDを点滅させていた。

「……標的、不在!デコイです!通信を追跡せよ!」。


――アリーナから数キロ離れた高級ホテルの一室。

大樹とイーグル・Jは、ルームサービスの残骸が散らばるテーブルを囲んでいた。

「俺たちはここからアクセスしているが、奴らからのシステムのログには『アリーナの控室』からアクセスしているように偽装した。あそこの端末を中継器ブリッジにすることで、奴らの追跡を物理的に誘導したんだ」

大樹が、これまでの操作ミスやブランクを取り返したと言わんばかりの不敵な笑みを浮かべた。

「……控室の端末が壊されたら、接続が切れるんじゃないのか?」

イーグルの問いに、大樹は誇らしげに鼻を鳴らした。

「甘いな。ブリッジはあそこだけじゃない。アリーナ内の自動販売機の下、トイレの配電盤……他にもいくつか仕掛けてある。奴らが一つずつ潰して回っている間に、こっちはコアの暗号を解く」

イーグルは一瞬呆れたように大樹を見た後、鼻で笑った。

「お前……エンジニアより、ペテン師の方が向いているんじゃないのか?」

「勝負はコートに立つ前から始まっているんだよ。……さあ、時間は稼いだ。仕上げを頼むぞ、全米NO.1!」

イーグルの指が限界を超えた速度で跳ね、ついにコアシステムの最深部―――「プロジェクト・エリュシオン」―のディレクトリが開かれた。

流れるログは、もはやスポーツのデータなどという生易しいものではなかった。


「……なんだ、これは」

大樹の顔から血の気が引いていく。画面には、アル=ナジール国民一人一人の「生体管理ログ」が整然と並んでいた。

「購買履歴、会話の内容、心拍数の変動……それだけじゃない。不快な記憶をナノマシンで電気的に抑制し、常に『幸福』を感じるように脳波を調整している?……嘘だろ、これを見ろ」

イーグルがファイルをスクロールするたび、吐き気を催すようなデータが次々と暴かれていく。


―― Granular Data(*グラニュラーデータ)

【END-OF-LIFEOPTIMIZATION】:社会貢献度が一定値を下回った市民の「安楽死」予定リスト。

【GENETICAFFINITYMATCHING】:自由恋愛を禁止し、AIが決定した「最適遺伝子」に基づく強制婚。

【EMOTIONALSTABILIZER】:反抗的な思考を検知した際、強制的に脳へ流し込まれる向精神コード。


「この国は、豊かな楽園なんかじゃない。人間から『迷う自由』も『悲しむ権利』も奪い、システムの一部として飼い慣らすための巨大な檻なんだ。そしてNOVAのゾーン解析は……」

「……この精神支配を、バーチャル空間を通じて『全世界』にパンデミック(感染)させるための、バグの解消だったってわけだ」

イーグルが吐き捨てるように言った。


モニターの青白い光に照らされた二人の顔は、怒りと恐怖に強張っていた。

アル=ナジールの若き英雄・アミールも、そして彼を熱狂的に応援する国民たちも、すべては精密に計算されたプログラムの「部品」に過ぎない。




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