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-V.B.L” Virtual Basketball League “ - 『150cmの少女(バグ)が放つ一投は、国家の闇をぶち抜く。――仮想バスケで世界を狂わせる『ノイズ』になれ!』  作者: 蒼井 理人
Layer08:システムvsノイズ

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31/52

Node8.2:ハッキングの交錯

アリーナの裏通路にある、薄暗い控室。大樹はノートPCを膝に置き、アメリカ代表のイーグルと並んで腰を下ろしていた。背後では、試合の実況音が遠くで響いている。


「……始まったな。システムが収集コレクトモードに移行した。NOVAの脳波を吸い上げるために、―HARMONIA―の外部ポートが一時的に『全開放』されている。今この瞬間だけが、奴らの心臓部コアへ潜り込める唯一の隙間だ」

Xの指がキーボードを叩くたび、モニターに走るログが高速で流れていく。


>>>connectvpn://az-core.main>>>auth_token=――――


「ポート22開いた。SSHセッション確立……」

大樹の指がキーボードを叩く。だが、その動きはコートで見せている電光石火のキレには程遠い。管理職としてのブランク、そして最新の多層防御プロトコルへの戸惑いが、タイピングを遅らせていた。

「……おい、キー押すの遅くないか?」

イーグルが眉をひそめる。

「う、うるさい。現場の最前線は久しぶりなんだよ!」

Xは額に汗を浮かべながらキーを入力する――


>>>connect_vpn://az-core.main

>>>auth_token:[――――]

>>>status:ESTABLISHINGSSHSESSION...

「ポート22、開放。セッション確立だ……」

大樹が額の汗を拭い、渾身の力でEnterキーを叩き込む。しかし、画面に返ってきたのは非情なまでの赤文字だった。


[ERROR:COMMAND_NOT_FOUND][WARNING:LEGACY_SYNTAX_DETECTED]


「……おい。今のコマンド、10年前の教科書に載ってたやつか?」

隣でタブレットを弄っていたイーグルが、呆れたように眉をひそめる。

「う、うるさい!構造アーキテクチャの基本は変わらん。少し指がなまっているだけだ!」

「どけ。見ていられん。お前は現場じゃなく、議事録でも書いていろ」

イーグルは大樹のPCを強引にひったくると、膝の上で踊るように指を走らせた。そのタイピング速度は、もはや楽器の演奏に近い。バスケだけでなく、電子戦においても彼は「王者」のようだ。


>>>exploit--payload_inject--target:az-firewall

>>>bypass—heuristic-analysis--mode:stealth


「ほう……やるじゃないか」

大樹は悔し紛れにスポーツドリンクを煽る。

「貴様よりはな。俺のチームのウォッチャーは、これより10倍は早い……」

イーグルは片手でタイピングしながら、もう片方の手で端末をスワイプして試合の映像を確認していた。

「わかった、あとは任せた……俺はコーヒーでも淹れるか。いや、応援に徹する」

大樹はパソコンから視線を外し、隣でスポーツドリンクを飲み始めた。

「お前、現場エンジニア向きじゃないな……」

イーグルがぼそりと呟く。

「急げ。このままじゃ、NOVAが持たない!」

大樹が、叫ぶ!

「うるさい!わかっている!」

イーグルが、堪える。


その頃、コート上ではNOVAが限界を迎えつつあった。

ヘジテーションからの鋭いドライブ。本来なら抜き去っているはずのタイミング。

だが、アル=ナジールのディフェンスは、まるで「リハーサル済みの舞台」のように、彼女の着地点に先回りして壁を作っていた。

(……身体が、泥の中に沈んでいくみたい……)


NOVAのアバターに激しいブロックノイズが走る。―HARMONIA―は、彼女のゾーンが生み出す「不規則なリズム」さえも、巨大なビッグデータの一部として確実に咀嚼し始めていた。


「ルーティング完了。……次はファイアウォールか」

イーグルが端末にコマンドを叩き込むと、モニターに赤いアラートが連続で表示された。


ACCESSDENIEDFIREWALLBLOCK:LAYER7(BEHAVIORALANALYSIS)


「チッ、侵入検知が働いたな。しかも行動分析レイヤー。人間のアクセスだと判定された」

イーグルはスクリプトを切り替え、複雑な暗号化パケットを擬装し、AIのトラフィックに見せかける。


「……ッ!」

NOVAの意識が引きずられる。

(体が、重い……いや、違う。思考そのものが遅れてる。次の選択肢を、読まれている!)


「やられてる!ゾーンそのものが学習され、システムの『最適解』としてアップデートされてるんだ!」

ベンチでタブレットを凝視するYUTAが、焦燥に声を荒らげる。

「NOVA一人に負荷が集中しすぎている。このままだと、彼女の精神特性がすべて吸い取られて……空っぽにされる!」


その時、YUTAの瞳には絶望ではなく、決意が宿っていた。

「――なら、僕たちも『なか』に入るぞ」

「えっ?YUTA、何言ってるの……私たち、まだゾーンなんて!」

QUEENが驚愕に目を見開く。

「少し違う!NOVAのゾーンを分散させるんだ。NOVAだけじゃ負荷が大きすぎる。俺たちがノイズの共振体になる!」

「一人でダメなら、三人で共振させるんだ!NOVAのゾーンを『核』にして、僕たちがその周囲でノイズを増幅させる『増幅器アンプ』になる!QUEEN、Hare Show、僕の同期信号シンクに意識を預けてくれ!」

優太が、特権IDでパッチを走らせ、強制的にチームメイトのメンタルパラメータをリンクさせる。

次の瞬間、QUEENとHare Showに、NOVAと同じ「黄金の残像」が重なり始めた。


「……来たわね。地獄の淵まで付き合ってあげるわよ!」

QUEENの瞳が鋭く光り、動きが物理演算を無視した加速を始める。

「三人が同時にゾーンに入ったぞ!」

大樹が、息を呑んだ。


次のポゼッション、日本の攻撃は明らかに変わった。

Hare Showがシザーステップで相手を揺さぶり、背後からバックチップ。スティール成功。QUEENがすかさずフローターを放ち、リングに吸い込まれる。

「……干渉が広がった!」

アリーナ裏の控室。モニターが、コート上の異変に呼応して激しく点滅した。

「パケットの同期が崩れた!三人が放つバラバラなノイズが、―HARMONIA―の予測アルゴリズムをオーバーフローさせている!イーグル、今だ!コアの防壁が剥き出しになったぞ!」

「指示するな、もうやっている!」

イーグルが猛烈な勢いでコードを流し込む。画面には、アル=ナジールの国家中枢を司る巨大なデータツリーが、網状に展開されていた。


>>>exploit--payload_inject--target:core://az-mainframe

>>>privilege_escalate--user:root

>>>status:[GRANTED]

一瞬のブラックアウトの後、モニターに緑色の文字が静かに浮かび上がった。


[ROOTACCESS:GRANTED][SYSTEM_OWNERSHIP:ACQUIRED]


コート上では、NOVAがシャムゴッドからのステップバック3P。スウィッシュ。観客が総立ちになる。

まるでコート全体がハッキングのための―「ノイズジェネレーター」―となり、システムの防御を無力化しているようだった。

だが代償は大きい。ゾーンの維持でメンバー全員の呼吸が乱れ、アバターのフレームレートが落ちていく。肉体と精神の限界が迫っていた。


「……長くは持たないぞ。もってあと3分」

YUTAが苦しそうに呟く。彼の指先が、痙攣していた。

「あと少しだ!」

大樹がモニターに向かって叫ぶように答えた。ログに最後の行が走る。


[core.access=GRANTED][privilege.root=TRUE]


「やったぞ……コアに入った!」

イーグルが不敵に笑い、汗で張り付いた前髪を乱暴に払った。

「さあ、この『楽園』の裏側に隠された汚い真実を、すべて引きずり出してやろうじゃないか」

その瞬間、アリーナのホログラムが一斉にノイズを発し、光が明滅する。観客のざわめきが広がる中、NOVAたちは、コートに立ち続けていた。

「まだ……終わらない」

NOVAが静かに呟いた。システムとの闘いは、いよいよ最終局面へ突入する。


「あと3分って……おれの胸には、カラータイマーついてないですけど……」

Hare Showが、息も絶え絶えに、ぽつりとつぶやいた。



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