表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界線の街  作者: 前澤凛
4/11

溜まっていくもの

夕方。


仕事部屋から出てきたカナデはなんの気もなしに冷蔵庫を開いた。


……沈黙。


ほとんど物が入っていなかったはずのそこに、見覚えのないものが入っている。

飲みかけの炭酸水が二本、未開封のゼリー飲料が数個、どこで買ったのか分からないチョコレート、何故ここに入れたのか理解に苦しむチューイングガム。


眼精疲労を疑って、一度扉を閉じる。

眼鏡を外して一度眉間を揉み、掛け直して再度開く。


…………変わらない。


溜息を零しているとバスルームから上裸でアイビーが戻ってきた。

そして飲みかけの炭酸水を一本と、ゼリー飲料を一パック取り出す。



「……アイビー、お前いつから俺のルームメイトになった?」

「……は?なってねぇよ、そんな面倒なモン」



肩にタオルを引っ掛けて炭酸水を飲むアイビー。

カナデはその気配を背後に感じながら、冷蔵庫のドアを閉めた。



「……ああ、ちなみにこいつはお前の分な」

「……は?」

「いいから飲んどけって」

「……お前な」



声と共に栄養補助食品として名の通ったパックを放り投げられ、反射的にキャッチするカナデ。

アイビーの表情は普段と何ら変わらない。



「……買い出しなら行くから呼べって言っただろ」

「いちいち呼ばれたいって?そりゃ悪かったな」



半ば諦めの境地で封を切る。

常用しているものを買ってくる、いつもの手口。

カナデは蓋を緩めながらソファの定位置に身を沈める。

当然のように隣に来るアイビー。



「……なあ、お前」

「……何だよ、まだ文句でもあるか?」

「…………いや、いい」



紡がなかった言葉を飲み込み、ゼリー飲料に口をつける。

少し薬剤じみた、人工甘味料の味。

隣のアイビーが微かに笑った気がした。


パックの中身を飲み干したカナデは、空のそれと煙草の箱を持ち替える。

蓋を開けて唇で直接煙草を引き出し、愛用のジッポをポケットから出して火を点ける。

……と、隣から身を乗り出してくるアイビー。

その口元には、一本の煙草。



「……吸えよ」



ジッポの蓋を閉じる。

思いついたささやかな嫌がらせ。

火をつけたばかりの自分の煙草の先端をアイビーの煙草の先に当てる。

相手と息を合わせて吸い、赤色の熱を移してやる。



「……、普通に点けりゃいいだろ」

「勝手に冷蔵庫の物増やすお前が悪い」



オイルで灯した火を好むアイビーにはいい薬だと、微かに笑った夜。





それから一ヶ月、二人は顔を合わせていない。




仕事部屋から出てきたカナデが冷蔵庫を開ける。

中には飲みかけの炭酸水が一本、仕入先不明のチョコレート、チューイングガム。

炭酸水を取り出し、開ける。

気化したガスの抜ける音。

カナデはそれに口をつけ、一息に呷る。


わざわざ置いておく必要はない。

勿体ないから飲んだだけ。

空になったペットボトルを捨ててから、静かに冷蔵庫を閉める。

閉める間際に見えた趣味の合わないチューイングガムが、やけに視界に焼き付いた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ