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境界線の街  作者: ヒビキ
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16/22

臨時休業と遠出

最寄りのスーパーが臨時休業だった。

たったそれだけの理由で向かった先は、街の中心部から少し離れた大型スーパー。



「……相変わらず運転慣れしてるな」

「お前の運転が荒いんだよ」



カナデの声に短く応える声。

アイビーの運転で乗ってきた車から降りる。


自動ドアをくぐりカートを引き出すカナデ。

そこにアイビーがカゴを載せる。

向かう先は生鮮食品のエリア。

隣合ったまま店内を進む。



「……お前、これ駄目だったか?」

「いや、それはいける」

「じゃあこれは」

「細切れにされてもいらない」



アイビーの手が野菜を放り込む。

カナデはそれを淡々と眺める。

二、三日分の野菜を放り込んだカゴは三分の一が埋まっていた。

二人は次のエリアへ向かう。

鮮魚コーナーを一瞥するアイビー。

手は出さない。

見るだけ。



「いいのか?」

「気分乗らねぇ。……カナデ、先に肉見てろ」



短い応酬のあと不意にアイビーが売り場を離れる。

見送るカナデは止めない。

指示された通りに精肉コーナーへと移動する。

その唇が小さなため息を吐いた。


精肉コーナーはタイムセールで賑わっていた。

密集する買い物客を避けてカナデは肉のパッケージを見る。

視線の先には赤身の肉塊。

それに伸ばした手首が別の手によって掴まれた。



「……お前な」

「何だ、早かったな」

「俺は見てろっつったんだよ」

「別にいいだろ、支払いは俺だ」



カナデの物言いに今度はアイビーがため息をつく。

手首から離れた手は別の肉を取った。

それをそのままカゴへ放り込む。

が、一緒に放り込まれた物をカナデは見逃さない。



「……買うものを選ぶ権利は俺にもあるよな?」

「…………」



無言。

静かに持ち上げられた「エナドリ味のスナック菓子」。

珍しくアイビーが目を泳がせた。

……二度目のため息と共に持ち上げたそれをカゴに戻す。



「……今夜美味いもの作れよ」



短く呟いて先へ進むカナデ。

惣菜コーナーには目も向けない。

すぐ後ろを歩いてくるアイビーの気配が止まった。

振り返るとそこは乳製品のコーナー。

チーズを眺めるその横顔に、カナデは一言声をかける。



「……赤か?」

「赤で」



確認に多くの言葉はいらない。

カートをアイビーの傍に置いて、ワインボトルの並ぶ陳列棚へと足を向ける。

ずらりと並ぶ赤の中から一本、比較的質のいいものを選んで戻る。

動いた様子のないアイビーの肩を叩き、静かにワインをカゴへ入れる。


……沈黙。


そこにはついさっきまでなかったはずの、謎の菓子パンが増えていた。



「……アイビー、お前な」

「……美味いつまみ作ってやるから」



チーズを手に取りカゴへ放り込みながら返された言葉に三度目のため息が零れる。



「……全部一人で消費しろよ。俺は手伝わないからな」

「言われなくても分かってるって。……お前は俺の飯だけ食ってろ」



肩に置いたままの指先にほんの少しだけ力が入る。

アイビーはそれに怯まない。

むしろどこか楽しげに言葉を返す。

その距離感は、通りすがりの客が足を止めるほどに近い。


カゴの三分の二が商品で埋まった頃に二人揃ってレジへ向かう。

一番流れの早そうなレジの列へ並び、静かに待つ。

暇潰しに余所見をするアイビー。

片手の五指を曲げて爪を見下ろすカナデ。

互いに自然と肩が寄る。

触れそうな距離を見たカップルが背後で何事か囁いた。


そう間を置かずに自分たちの番が来ると、カナデはカゴをレジへと移した。

会計のために立ち止まるその背後をアイビーが静かにすり抜ける。

カナデはカードで支払いを済ませ、カートを戻したアイビーの待つ作荷台へとカゴを運ぶ。

レジでもらった袋をそれぞれに開き、購入品を詰めていく。

ビニール袋を携えて店を出る。

外に出ると既に夕刻を迎えていた。


車のキーを出す一人と、その少し後ろを進む一人。

オレンジの西日に包まれた駐車場に、二人分の長い影が伸びていた。




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