深夜のコンビニ
「いらっしゃいませー」
深夜、どこか気怠げなコンビニ店員の声が響く。
入ってきたのは見慣れた二人組。
白っぽい銀髪の男と、黒にマゼンダの男。
店内に入って早々二人は別々に動きだす。
一人は炭酸水のある冷蔵庫へ、もう一人はカゴを取って入口近くの棚へ。
録音された店内アナウンスの中に、二人分の音が混ざる。
入口付近に経つマゼンダの男が陳列されたゼリー飲料を複数個カゴに放り込む。
奥からは冷蔵庫の開閉音。
埋めたばかりの棚から何かを取り出したらしい。
二人の動線はいつだってほとんど交わらない。
交わるのは銀髪がマゼンダのカゴに物を放り込む時くらい。
今回もそう。
中央の通路でマゼンダに近づき、新発売の透明なボトルを二本放り込む銀髪。
放り込まれた側のマゼンダがカゴを一瞥する。
……沈黙。
明るい声のアナウンスが流れる中、無言で奥へと向かい冷蔵庫を開けるマゼンダ。
舌打ちをしたのは銀髪か、マゼンダか。
正解は棚影に隠れて分からない。
マゼンダから離れた銀髪が菓子コーナーへと移動する。
商品棚から取るものは、新発売のチューイングガム。
その間に冷蔵庫のドアが閉まる。
棚の向こうを移動する黒い頭。
カラーを入れていないだけだろう黒髪なのに、何故かあの男のそれは変に隙のない色合いに見える。
それが冷蔵食品コーナーへ向かう。
黒髪と黒服の間を彩る鮮烈なマゼンダがいやに目につく。
再びマゼンダの男に近づく銀髪。
カゴに高濃度のチョコとさっきのガムを放り込みながら、何事か言葉を交わす二人。
その内容は少し気になった。
盗み聞きの趣味はないが、断片を拾うくらいはと店員が静かに耳を傾けてみる。
瞬間、色素の薄い眼差しがレジを射抜いた。
跳ねる心臓。
慌てて意識を客から逸らす。
射殺すような冷たい視線は本当にほんの一瞬だけ。
けれどその視線は店員のささやかな好奇心を殺すには十分だった。
やがて揃ってレジの前まで足を運ぶ二人組。
少しだけ背の高いマゼンダの男がカゴを出す間、銀髪はふらりとその場を離れて興味なさげに陳列棚を眺める。
「袋どうされますか?」
「ひとつで。……それと、227番と605番」
温度の低い声が淡々と紡ぐ。
店員は背後から煙草を二箱取った。
「こちらでよろしかったでしょうか?」
「はい。……あ、支払いこれで」
客と店員の最低限の会話。
差し出されたスマートフォンのバーコードを読み取る。
商品を袋に詰めている間に戻ってきた銀髪がマゼンダの肩に肘をかけてもたれかかる。
友人と呼ぶには近すぎる距離感。
「…………」
マゼンダの物言いたげな視線を軽く受け流す銀髪の男。
小さなため息がアナウンスに紛れた。
「お待たせしましたー」
「……どうも」
袋に詰め終えた商品を差し出す。
店員に触れないようにそれを受け取るマゼンダの男。
肩にもたれかかっていた銀髪は、マゼンダが動くと腕を下ろしてやや斜め後ろを歩き出す。
温度はないのに距離感だけが妙に近い二人の背中。
足を止めずに歩くマゼンダが銀髪に買った煙草の一方を渡す。
それを受け取った銀髪が、閉まる自動ドアの向こうで何事か喋る。
それきり二人は互いに背を向け別々の方向へと歩き出す。
店員の謎は深まるばかりだった。




