情報屋
インターホンの音が鳴る。
事前に聞いていた通りの時間。
カナデはソファから立ち上がり、モニターを一瞥してから玄関の鍵を開ける。
扉の向こうに立っていたのは、黒髪に黒スーツの男だった。
部屋の中に案内する。
貴重な資料の提供者として。
基本的にカナデは人と会わない。
会う時は、その必要性がある時だけ。
ソファに畳まれた服を避けるようにして、空席に座るアザミ。
そんな彼に対して親しげに話しかけることはしない。
仕事の依頼人として定位置に座り、斜め向かいの彼に声をかけた。
「……で、資料は」
温度のない、短い言葉。
アザミは持ち込んだファイルと封筒をローテーブルに静かに置く。
その顔に慢心は微塵もない。
ただプロとして、依頼者を淡々と見据えていた。
丁寧にファイリングされた資料を開くカナデの指が、表には出回らない資料のページを規則正しいリズムで捲る。
紙が擦れるその音に混ざって静かに響く着火音。
アザミの煙草の僅かに甘い香りが部屋の中にふわりと散った。
ファイルを一通り確認したあと、続けてカナデは封筒を手に取る。
中に入っているのは赤で彩られた数枚の写真。
それと、次回の題材にしようと思った事件にまつわる書類。
凄惨な現場をフレームに納めたその写真を見る眼差しは冷えきっている。
「……これで全部か?」
「足りるだろう?」
白煙を吐いた口で返すアザミ。
その声は淀みなく、どこか食えない色を孕んでいる。
「……報酬はいつもの口座でいいな?」
「ああ、それでいい」
冷たく澄んだ最低限の会話。
カナデが封筒に資料をしまう音が響く。
「さて、今回の依頼はここまでだ。また何かあればいつでも言ってくれ」
「……ああ、そうさせてもらう」
長居は無用とばかりにソファから立ち上がるアザミを見送るため、カナデも遅れて立ち上がる。
黒髪の隙間から除く情報屋の瞳がさりげなく、ローテーブルの上を一瞥する。
一方に寄せて置かれた灰皿と、無造作に転がるワイヤレスイヤホン。
「……どうかしたか?」
「……いいや、何も」
緩く左右に頭を振り、玄関へ。
手入れの行き届いた革靴を履き、アザミは静かに部屋から立ち去った。
金属のドアの向こうに黒い背が消える。
鍵を閉める。
チェーンはかけない。
リビングに戻ってソファに座る。
相変わらず耳につく換気扇の音。
慣れた様子で耳にイヤホンを嵌め、カナデは冷めかけのコーヒーを啜る。
イヤホンと同期されてないスマートフォンが、無機質な通知音を響かせた。




