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境界線の街  作者: ヒビキ
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12/22

情報屋

インターホンの音が鳴る。

事前に聞いていた通りの時間。

カナデはソファから立ち上がり、モニターを一瞥してから玄関の鍵を開ける。

扉の向こうに立っていたのは、黒髪に黒スーツの男だった。


部屋の中に案内する。

貴重な資料の提供者として。

基本的にカナデは人と会わない。

会う時は、その必要性がある時だけ。

ソファに畳まれた服を避けるようにして、空席に座るアザミ。

そんな彼に対して親しげに話しかけることはしない。

仕事の依頼人として定位置に座り、斜め向かいの彼に声をかけた。



「……で、資料は」



温度のない、短い言葉。

アザミは持ち込んだファイルと封筒をローテーブルに静かに置く。

その顔に慢心は微塵もない。

ただプロとして、依頼者を淡々と見据えていた。

丁寧にファイリングされた資料を開くカナデの指が、表には出回らない資料のページを規則正しいリズムで捲る。

紙が擦れるその音に混ざって静かに響く着火音。

アザミの煙草の僅かに甘い香りが部屋の中にふわりと散った。

ファイルを一通り確認したあと、続けてカナデは封筒を手に取る。

中に入っているのは赤で彩られた数枚の写真。

それと、次回の題材にしようと思った事件にまつわる書類。

凄惨な現場をフレームに納めたその写真を見る眼差しは冷えきっている。



「……これで全部か?」

「足りるだろう?」



白煙を吐いた口で返すアザミ。

その声は淀みなく、どこか食えない色を孕んでいる。



「……報酬はいつもの口座でいいな?」

「ああ、それでいい」



冷たく澄んだ最低限の会話。

カナデが封筒に資料をしまう音が響く。



「さて、今回の依頼はここまでだ。また何かあればいつでも言ってくれ」

「……ああ、そうさせてもらう」



長居は無用とばかりにソファから立ち上がるアザミを見送るため、カナデも遅れて立ち上がる。

黒髪の隙間から除く情報屋の瞳がさりげなく、ローテーブルの上を一瞥する。

一方に寄せて置かれた灰皿と、無造作に転がるワイヤレスイヤホン。



「……どうかしたか?」

「……いいや、何も」



緩く左右に頭を振り、玄関へ。

手入れの行き届いた革靴を履き、アザミは静かに部屋から立ち去った。


金属のドアの向こうに黒い背が消える。

鍵を閉める。

チェーンはかけない。

リビングに戻ってソファに座る。

相変わらず耳につく換気扇の音。

慣れた様子で耳にイヤホンを嵌め、カナデは冷めかけのコーヒーを啜る。

イヤホンと同期されてないスマートフォンが、無機質な通知音を響かせた。



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