夜の扉
女性を初めて部屋に入れるとき、期待や不安が心の中でせめぎ合いながらも、この一歩を踏み出すために男性は勇気を振り絞る。
この誰もが通過する第一歩は、触れたいのに触れられない距離、近づけば壊れるかもしれない関係を超えるための瞬間なのだ。いつもの自分の部屋の扉が、その日だけは特別な扉になる。
昔の光の君も、今日の「僕」も、緊張して鍵を開けるのだ。
***
玄関のドアが閉まった瞬間、部屋の空気がいつもより重く感じた。彼女が靴を脱ぎ、こちらを振り返る。そんな仕草にさえドキドキする。
本当に泊めていいのか。いや、もう「いい」も「わるい」もない。連れてきたのは自分だ。男としての理性と、男としての本能と、男としての見栄の三つ巴で、のどがからからになる。
「お邪魔します」彼女がいたずらっ子のように言う。僕はうまく返事ができず、ただ頷いてキッチンに逃げた。冷蔵庫を開けるとビールが三本あった。
「ビール飲む?」
「あ、うん、ちょっと」
二人でソファに座り、ビールで乾杯した。
静かすぎる部屋が耐えられなくなり、テレビをつける。スポーツニュースが流れているが、まったく頭に入ってこない。
彼女はクッションを抱えながらビールを飲んでいる。その姿が妙に家庭的で、妙に距離が近くて、妙に危険だった。
「なんか、緊張してる?」彼女が笑って言う。
「そりゃするだろう」
「なんで?」
「なんでって……お前がいるからだよ」言ってしまった。面倒くさい男みたいだ。
けれど彼女は目を伏せて言った。
「私もちょっと緊張してる」その一言は、少し僕をほっとさせた。触れたい。でも、触れたら壊れるかもしれない。壊したくない。でも、触れたい。こんな心の中の葛藤なんて、彼女にはばれたくなかった。
「今日は、何もしなくてもいいから。帰りたくなかっただけだから」え、何言ってんだ。
救われているのか、追い詰められているのか、逆に男を試されているのか。僕はビールを一口飲んだ。
「そっか。明日は休みだし、ゆっくりしていけよ」彼女がほほ笑んだ。これから長い夜が始まる。
***
夜は、人の本音を静かに浮かび上がらせる。
そもそも、男の葛藤というものは、誰にも見せられないほど滑稽で、不器用で、けれど隠しきれないほど正直だ。そして女は、その葛藤をよく見抜いている。
光の君もまた、触れれば壊れるかもしれない。けれど、触れずにいれば後悔が残る。
そんな矛盾の中で揺れたのであった。
「僕」は二人の距離を縮めることができたのか。それともただ、同じ夜を共有しただけで終わるのか。彼の勇気と、彼女の大胆さが楽しみである。
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