転生人語 #007 ― 恋は盲目 (大学時代の片思いの記憶)―
昔から、恋をすると周りが見えなくなると言われてきた。前世でも今世でも、恋に落ちた人は相手の欠点さえ見えなくなり、周囲の声も届かなくなる。この女の子も、その例外ではなかったようだ。
***
あたしが君のことを好きだったこと、君は気づいてないよね。
十年前、あたしは君のことが好きだった。だけど、君はあの子が好きだった。大学のゼミの打ち上げで、君は彼女を送ってくると言って、いつもあたしたちを放っておいて彼女を追いかけていたよね。
彼女に彼氏がいることはみんな知っていたけど、君は何とか振り向かせようと、本当に健気に優しくしていた。それを見て、あたしはますます君を好きになったんだよ。
ゼミの合宿の夜、偶然二人きりになって、こんな会話したの覚えてる?
「髪の毛切ろうかな?」
「うん、短いの似合うと思うよ。今、流行ってるし」
だから、あたし、次の週ショートにしたんだ。でも、君は気づかなかったよね。きっとただの社交辞令だったんだよね。
もう一つ、あたしのレポートを見て、
「字、きれいだね。ちょっと読ませて」と言って、真剣に読んでくれたよね。あたしはドキドキして、読み終わるのを待っていたのに、君は何も知らない顔で、
「参考になった。字きれいで読みやすい。サンキュー」
どうして、こんなただの会話が忘れられないんだろう。
結局、大学を卒業して数年後、君は会社の女の子と結婚したよね。
あたしも心のどこかで君を思い続けていたけど、あたしはあたしの会社の先輩と付き合って、結婚した。今の旦那のことは大好きで、不満なんてないよ。
でもね、たまに思い出すんだ。君のこと。
忘れられないんだよね。
多分ね、あの時、君に恋していた“あたし”のことが忘れられないだけなのかもしれない。
こんなこと、おかしいよね。
***
そもそも、恋は盲目と言うように、恋をしている間は周りの気配など気にも留めなくなる。
この彼女も、もしかすると、自分の周りに彼女を想っていた男の子がいたことに気づいていなかったのかもしれない。
手に入れられなかったものは、一段と惜しく感じられ、忘れられないのかもしれない。
そんなわたしも、千年前に好きだった女の子を今でも忘れることが出来ないでいる。
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