転生人語#058 ー前に立つ僕―
今も昔も、人が集まる場所では、正しさよりも声の大きさが勝つ時がある。
上司の理不尽な理由で誰かが押しつぶされそうになっている時、「僕」は黙っていられなかったようだ。
***
昼前、総務の同期、シモちゃんがコピー機の前で固まっていた。紙詰まりでも起きたのかと思ったが、違った。肩が震えている。まさか泣いているのかと思い、声をかけた。
「どうしたの?」シモちゃんはゆっくり振り返った。無理に笑おうとしているが、泣いていた。
「課長に怒られた。資料の数字が違うって」
シモちゃんは自分を責めるように言ったが、僕は事情を知っていた。彼女はいろいろな部署からデータを集めてまとめているだけで、数字が正しいかどうかなんて分からない。間違ったデータを渡した部署の責任である。
「シモちゃんのせいじゃないよ」
「でも、わたしがもっと確認していれば…」
「シモちゃんに分かるわけがないよ」
シモちゃんは何か言いかけたが、結局何も言わなかった。
*
昼休み、僕はシモちゃんの課長の席へ向かった。周囲の視線が集まるのを感じたが、気にしない。
「昨日の会議の数字の件ですが」課長が顔を上げる。
「データが間違っていたのは、僕の確認不足でした。シモちゃん——いえ、下川さんのミスではありません」もちろん嘘である。
課長の目が泳いだ。
「本当にすみませんでした。下川さんはデータの妥当性までは分かりません。今度からデータを渡す前に、僕が何度も確認します」
課長はしばらく黙り——
「分かった、分かった。下川さんに強く言いすぎた。あとで謝っておくよ」
これでもう、彼女が理不尽に怒られることはないだろう。
***
昼休みが終わり席に戻ると、シモちゃんがやってきた。
「ありがとう。弁解してくれて」
「あれ、聞こえてた?」
「昼休みだったから、みんな聞いてたよ」
「課長さん、分かってくれたと思うよ」
シモちゃんは少し恥ずかしそうに聞いた。
「でも、どうしてそこまでしてくれるの?」
「子供の頃から、理不尽な理由で怒る人を許せないんだよね。例えそれが先生でも」
「なんか、正義の味方か昭和の不良みたいね」
「そっかな。でも、シモちゃん、泣き寝入りしちゃダメだよ」
「分かってるけど、自信なくて」
僕だって自信はない。でも、人を守るときだけは、なぜか強くなれる。
夕方、シモちゃんが
「今日はありがとうね」と言って帰っていった。
嬉しそうな彼女を見て、僕は思った。これからも理不尽だと思ったことは、ちゃんと口に出していこう。シモちゃんのような人を助けるためにも、守るためにも。
***
矢が飛んできたときに、一歩前に出ることはできるだろうか。
その一歩を踏み出せる人は、そう多くない。損をするのが怖いからである。
そもそも、昔から“筋を通す”と言うが、損得で動く心に筋は宿らない。誰に見られなくても、褒められなくても、筋は折らずに持ち続けるものだ。
彼女が救われたのは、優しさではない。「僕」が自分の美学——筋を通したからである。美学を持つ人は、時代が変わっても強い。
そして、そんな「僕」は女にも、さらには男にもモテるに違いない。
わたしの千年前の物語にも、そんな男が登場する。
読んで頂き、ありがとうございます。
気に入って頂けたら、ブックマークや評価をもらえると嬉しいです。
#100まで続けます。
ようやく転生人のプロファイルを確定しました。
超有名人です!
#100までには明らかになるようにします。
みなさん、誰だか予想しながら、お付き合いください!




