背中で語るお作法
昔から、男が惚れる男になりたいとよく考える。外見ではなく、その行動やお作法に憧れるものだ。今、僕はその瞬間を見たのだろう。
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僕のプロジェクト・チームが手がけたサービスにバグがあり、お客さんに迷惑をかけたことがあった。僕たちは休日返上で原因を調べ、リカバリー案を作り、お客さんに説明に行くことになった。
その時、お客さんからは「それなりの責任者も連れて来て欲しい」と言われた。かなり怒っている様子で、僕は「まずいなぁ、怒鳴られるなぁ」と心配していた。
僕は上司に同席をお願いしたが、「都合が悪い。なんとか君たちで対応しておいてくれ」と言われ、途方に暮れた。
ところが、その上司のさらに上の上司が「いいよ、一緒に行くよ。事前に詳細を教えてよ」と言ってくれた。僕にとっては雲の上のような人で、とても緊張しながらお客さんを訪問したことを覚えている。
その方と一緒にお客さんを訪問し、丁寧に説明し、深く頭を下げた。お客さんはネチネチと嫌味を言い、しつこく再発防止を求めてきた。その上司の方は、あたかも自分のチームがミスをしたかのように弁解し、「二度とこのようなことがないようにします」と頭を下げてくれた。
なんとかお客さんを説得し、帰りの新幹線でその方が隣に座り、買ってきた缶ビールを僕に渡してくれた。
「お疲れ様。お客さん、なんとか納得してくれてよかったな」
僕は恐縮して、何度もお礼を言った。
「最先端をやってるんだから、ミスや間違いは起こる。そんな時、どれだけ真摯にお客さんに向き合うかだよな。嘘やハッタリはダメ。分かるよね」
そして、
「この問題をうまく解決できれば、きっと次の商談も俺たちに依頼してくれるよ」
新幹線を降りた後も、その方が飲みに誘ってくれたので、二人で飲みに行った。何度も問題を起こし、お客さんに怒られた話をたくさんしてくれた。そんな経験ばかりしてきた傷だらけの歴史は、とても面白かった。
飲み代はその方が払ってくれた。恐縮して何度もお礼を言うと、
「いいんだよ。次はお前が後輩に奢ればいい。今日のお客さん訪問の話をつまみにしてな」
***
そもそも、「これが男のお作法だ」なんて説明する男はダサい。
今回は、ピンチはチャンスになるということを、背中で教えてくれたのだろう。
こんなふうに静かに受け継がれていく“お作法”が、わしは好きだ。
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