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転生人語  作者: 岩田 ヒロ


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転生人語#054 ー後輩が懐く理由が分からない僕―

 人の気持ちは実に忙しい。好きな人に近づけば舞い上がり、離れれば勝手に落ち込み、期待しては自滅する。


 わたしの目の前に、まさにそういう人がいる。


 ***


 会社の後輩、千夏は、なぜか僕に懐いてくる。


「先輩、今日のシャツ、爽やかですね」

「先輩って、なんかほっとしますよね」

「一緒に帰っていいですか」


 そんなこと言われたら、僕だって多少は意識する。いや、多少じゃない。テレビの芸人じゃないけど、惚れてしまいそうだ。


 昼休み、給湯室でコーヒーを淹れていると、

 千夏が横からひょっこり顔を出した。


「先輩、ブラックなんですね。大人ですね」

「いや、砂糖入れるの面倒だから」

「え、かわいい」かわいいって何だ。僕は思わずカップを落としそうになった。


 しかし、千夏はそれ以上踏み込んでこない。

 僕が「週末さ……」と話し始めると、

「そういえば先輩、昨日の会議で——」と、絶妙なタイミングで話題を変えるのだ。


 ある日の夜、残業を終えてオフィスを出ると、千夏がエレベーター前で待っていた。


「お疲れさまです。駅まで一緒に帰りませんか?」

「ああ、いいよ」


 夜風が少し冷たい。僕は彼女の横顔をちらっと見る。そして、ついに聞いてしまった。


「千夏ってさ。なんで俺に懐いてくるの?」


 彼女は一瞬だけ驚いて、すぐに笑って言った。


「先輩って、なんとなく安心できるんです。

 ガツガツしてないし、変に詮索しないし。

 ガツガツする人とか、何でも質問してくる人って苦手なんです」


 ああ、そう。僕は“安心”というか、“安全な人”と思われているんだ。がっかりだ。


 駅の改札前で立ち止まると、千夏は小さく手を振った。


「じゃあ、お疲れさまです。先輩、ちゃんと寝てくださいね」

「はっ。なんで寝不足なの分かるの?」

「今日、ちょっと目が赤かったから。違いました?」


 そう言って、千夏は笑って背を向け、改札を抜けていった。僕はしばらくその背中を見つめて固まっていた。


 僕だけが盛り上がっているのか。いやいや、だったら“目が赤い”なんて気づくものなのか?


 頭の中は混乱している。でも、明日も千夏に会えるのを楽しみにしている。


 ***


 そもそも、人と人の距離というものは、近ければ良いというわけではない。遠すぎれば届かず、近すぎても壊れてしまう。


 昔から、女の方が距離をとるのが上手い。

 男たちが勝手に舞い上がっているのは、いつものことである。


読んで頂き、ありがとうございます。

気に入って頂けたら、ブックマークや評価をもらえると嬉しいです。


#100まで続けます。

ようやく転生人のプロファイルを確定しました。

超有名人です!

#100までには明らかになるようにします。

みなさん、誰だか予想しながら、お付き合いください!

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