転生人語#055 ーマッチング・アプリ同時進行―
マッチング・アプリなんて昔はなかった。今は簡単に、いや、軽率に出会うことが出来る。うらやましいようだが、いろいろな混乱の元にもなる。
昔はそんなアプリがなくても、浅はかに複数の彼女と付き合う人もいたから、アプリのせいでなく、男の性なのかもしれない。
アプリのせいか、男の性のせいかはわからないが、「僕」の人生も炎上寸前のコントのようになってしまったようだ。
***
アプリを始めて三週間。僕は三人の女性と同時にやり取りしている。
一人は落ち着いた雰囲気の美咲さん。文章が丁寧で、句読点は正しく、誤字脱字がない。あまりにも丁寧で、時間をかけてるなと思って、「これは僕に気があるな」と僕は根拠のない確信を持った。
もう一人は明るくてノリのいいさくらさん。返信が早く、スタンプも賑やかだ。「今日のランチ!」と写真を送ってくる。僕はランチに誘ってと言っているのだろうなぁと勝手に思い込んでいた。
そして三人目は不思議なゆかりさん。あまり自分のことは話さない。返事も一言、二言。
「映画好きですか?」
「うん」
「今度、一緒に行きましょう」
「はい」
なぜか僕は会って、もっと彼女のことを聞きたくなった。
三人とも魅力的で、誰か一人に絞るのは今は無理そうだ。
そんなある夜、スマホが連続で震えた。
美咲さん:「明日、お時間あればコーヒーでも飲みに行きませんか?」
さくらさん:「明日ひま?映画行く?」
ゆかりさん:「明日、会えませんか?」
三人とも、明日?僕はスマホを持ったまま固まった。スケジュールを開く。明日は一日中空いている。
午前、午後、夜。三連ちゃんでいくか?いけるのか?
いける気がしてきた。
一人でも断ったら、その子に申し訳なく思う。三人とも断りたくなかった。
午前、美咲さん
午後、さくらさん
夜、ゆかりさん
これでいくことに決めた。
翌日、午前十時。落ち着いたカフェで美咲さんと会った。写真よりも優しい顔をしている。オンラインで声は聞いていたのだけど、声の印象通りだと思った。文章と同じで、話し方も丁寧だ。
「このお店、前から来てみたかったんです」と言って、二人で同じコーヒーをオーダーした。
初めて会ったので、かなり僕は緊張していたと思う。お互いの話をしているうちに、あっという間に時間が過ぎた。時計を見ると十一時四十五分。次の予定が迫っている。
「すみません、午後から予定があって」と言って、別れを告げた。また会いましょうと社交辞令的に言ってしまった。彼女は頷いたが、一瞬「本当かな」と言いたそうに僕の目を覗き込んでいた。
カフェを出て、駅に急いだ。デートのハシゴだ。
午後一時、映画館でさくらさんと待ち合わせ。
「どうも、はじめまして」とさくらさんが嬉しそうに言う。背が高く、僕とほぼ同じくらいで、ちょっとびっくりした。身長くらいは事前に知りたかったなと思う。スリーサイズは無理だとしても。
映画が始まる短い間に会話をした。もっと話したかったのに映画が始まった。初対面で映画は失敗したと思った。映画が終わると彼女は「映画、面白かったね」と言ったけど、僕は「映画よりもさくらさんと話す方がよかったな」と期待をもたせるようなことを言ってしまった。
「じゃぁ、あそこのカフェでお話しよう」と彼女が言うので、今日二杯目のコーヒーを飲んだ。
さくらさんとの時間もあっという間に過ぎた。十七時二十分。
「ごめん、これから友だちと飲み会なんだ」と言って切り上げる。
「そっか、また会ってくれる?」と彼女が言うので、僕は「うん、いいよ」と答えた。その時のさくらさんは可愛く見えた。
そして夜、十九時。駅でゆかりさんと会った。写真よりも大人っぽくて、目が合うとドキッとした。夜だったからかもしれない。
軽く会話をして、イタリアン・レストランに行った。正直、腹ペコだった。
ビールで乾杯して、お互いの話をした。
しかし、ここで事件が起きた。
「なんか疲れてない?」と突然聞かれた。
「うん、朝からちょっと忙しくて」
「ごめんなさい。昨日いきなり誘っちゃって」
「全然問題ないよ」
「朝から何があったの?」
正直疲れ切っていた僕は、なぜか嘘がつけず、ゆかりさんに今日のことを話してしまった。
「実は今日、午前と午後に二人の女の子と会っていたんだ。例のアプリで知り合って」
ゆかりさんは目を丸くし、そして言った。
「じゃあ、わたしは三人目?」
「うん、ごめんなさい」
彼女は笑って、
「謝らなくていいのに。すごいですね。宅配便の再配達スケジュールみたい」
「……」
「わたしたち付き合ってもいないから、問題ないのよ。で、どう?三人目のわたしは?」
うわー、そうくるかと思った。でも、笑われてるのに、なぜか救われてる気がした。しかも嫌われてない?!
「えっ。ゆかりさんは期待通りの人です」
「そうじゃなくて、三人の中で誰が良かった?」
一瞬、美咲さん、さくらさんの顔が浮かんだ。
「まぁ、いいわ。でもね、普通は最後に会う人が本命だって言うのよ」
「えっ?」
「だって、誰よりも今日の最後に会いたいってことでしょ?」
やべ、これは敵わないなぁと思った。そんなつもりはなかった。でも、もしかしたら僕は無意識にこの順番にしたのかもしれない。
「ピザでも頼む?」と彼女は言った。
その瞬間、僕は悟った気がした。
***
そもそも、恋の同時進行なんて器用なことは「僕」には向いてない。というか、そもそもそんなにモテるわけではない。勝手に盛り上がっているだけだ。
女性たちは冷静に見抜いている。最後の彼女はかなり「僕」の上手をいくようだ。きっと「僕」は最後に落とされたのだ。
昔も今も、男はこうして勝手に盛り上がって、勝手に落ちる生き物なのだ。
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#100まで続けます。
ようやく転生人のプロファイルを確定しました。
超有名人です!
#100までには明らかになるようにします。
みなさん、誰だか予想しながら、お付き合いください!




